[Zuka] 星組バウ『龍の宮物語』(5)終

音楽奇譚『龍の宮(たつのみや)物語』
作・演出:指田 珠子
作曲・編曲:青木朝子
振付:御織ゆみ乃、花柳寿楽


玉姫(有沙瞳)によって龍の宮から地上に返された清彦(瀬央ゆりあ)。

龍の宮で過ごしたのは数日に思えたが、地上では30年が経過していた。30年間に起きた事は何も知らず、身寄りの元に帰ることもできない。酒場セリジエの女将・多江(澪乃桜季)の厚意で、下働きとして働く。

書生だった頃は将来の夢を描き、勉学に勤しんでいたが、今の清彦は龍の宮と玉姫に心を奪われ身動きができなかった。

沈鬱な雰囲気で、ひとり庭に佇んでいた美しい玉姫。

その顔は楽しげには見えず、自分が何か気に触ることをしたのか気にかかり、思い切って尋ねた。殺されかかって地上に返されたが、夜叉ヶ池の底にある龍の宮での、あの日々は何だったのか、玉姫はどうしているのか、思いは尽きない。

セリジエに見覚えのある顔が現れた。書生だった島村家の令嬢・百合子(水乃ゆり)の求婚者である白川鏡介(朱紫令真)である。地廻りの銀山(美稀千種)に借金があるらしい。清彦に気づいた白川は、昔のままの若い清彦に驚く。

一方、龍の宮では龍神・火照(天寿光希)と玉姫(有沙瞳)の仲が良くないとの噂が広まっていた。一帯では雨がふらず、雨乞いの噂も出始めている。龍神の弟である火遠理(天飛華音)は、玉姫を愛するあまり兄の火照が雨を降らせる龍神の務めを疎かにしていることを懸念していた。

酒場セリジエで地廻りの銀山に金本(遥斗勇帆)が雨乞いの生贄が欲しいと言うのを聞いた清彦は自分が生贄なると言い出す。

そして島村家の山荘を訪ねた清彦は百合子の子ども雪子(水乃ゆり)と昌介(紘希柚葉)、手伝いのお梅(侑蘭粋)に会う。清彦は昔の書生の部屋を訪れ、そこで親友の山彦に再会する。驚く清彦に夜叉ヶ池の伝説を語る山彦。

「決して池には近づかぬよう」。

清彦は思い出す。子どもの頃、祖母の家の近くの夜叉ヶ池で美しい若い女に出会い、桜蓼(さくらたで)の花を見せてあげる約束をした事を。

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約束を思い出した清彦は玉姫の棲む夜叉ヶ池の奥底の龍の宮に戻る(どうやって戻ったのか謎1)。

訝しむ玉姫に清彦は会いたかったからと、自分のありったけの思いを託した桜蓼のひと枝を差し出す。清彦が子どもの頃に会ったのは玉姫。男の末裔を彼女は見ていたのだ。

清彦はなぜ思い出したのか。衝撃を受けた玉姫は、龍神の妻である龍の体に変化する。


龍体となった玉姫の嘆き。龍神の妻となった身を悲しみ憤る。男は自分を捨て、龍の体では人をもう愛せない。龍神は龍神なりに自分を愛しんでくれている。だが、この嘆きをどこにぶつけよう。玉姫の嘆きは憎しみとなり、男の末裔を襲う。それが龍神にも理解される嘆きの晴らし方であった。だが玉姫は龍の身になりながらも人を愛したかったのではないか。その思いを受け止めてくれたのは清彦だった。

結局のところ、清彦は玉姫を喪い、老いた姿になる浦島太郎伝説とは異なって玉匣をあけても何も起きず、ただ一人、地上に残される(玉匣はなんだったのか謎2)。

それでも清彦は顔を上げる。

彼の上には、玉姫の愛と玉姫を愛しながらも手にかけることでしか幸せにすることのできなかった龍神の愛が降り注いだのだ(という仮説。謎3)。

清彦は自分の身に降り掛かった不可思議に流されずに、自らの意思で成すべきことを決めて、人に誠実に尽くす。弱いように見えて芯の通った優しさを持つ。こんな人いるのかなって思うけれど、瀬央に似合いました。

清彦さんにはしたたかに生きていってほしいです。


玉姫役の有沙瞳。日生劇場で見た『伯爵令嬢』のアンヌ役は衝撃でした。悪役なのに感情豊かな準ヒロインという存在感。まだ研3くらい?若い?と思った覚えがあります。『銀二貫』のヒロインも見ましたが、印象が強いのは『ドン・ジュアン』のエルヴィラ、『THE SCARLET PIMPERNEL』のマリー・グロショルツ、『阿弖流為』の佳奈。どちらかというと、芯があって感情表現がしっかりある役がうまい。今回は、みほちゃん(有沙)あっての玉姫という気がします。声音も人の気持ちの時と人ならぬ気持ちの時ではトーンを変えたり、カラーコンタクトを使って異質さを出したり、さまざまな工夫で玉姫を作り上げていました。

龍神・火照(天寿光希)と火遠理(天飛華音)。玉姫が「私は楽しげではないのでしょうか」と呟いたときに「あなたは私に愛されているのだ」と言い切ったところに、龍神の愛の形を見ました。が、玉姫の幸せそうな死に顔を見て、龍神も人と自分たちの違いを悟る。弟の火遠理は兄を諌め、人ならぬ神として、もとの姿に戻るように促す。

龍神と言っても、雨乞いのために生贄を差し出してくる人間のほうが残酷だろうと思ってるような神様だった。火遠理はそんな人間の愚かさを憐れむのが我らのあり方と考えている。この龍神と龍の宮の住民達だけでおもしろいお話が作れそうです。天寿さんは役に合わせて身にまとう雰囲気を変えてきますね。かのんちゃんもうまかった。あとね、龍神メイクのままの男役スタイルのフィナーレ。すごみがありました。

黒山椒道の大輝真琴の赤青眉とアイメイクと赤青どじょう髭が面白い。龍の宮の住民たちはメイクの工夫がすごいです。

ばあやのお滝と女将・多江の2役の澪乃桜季ちゃんが相変わらず、うまい。お嬢様・百合子を守るばあやと世慣れているけれど人情に厚い女将の2役を演じ分けていました。こういう場を締める役ができる人は貴重です。

それから白川のあかっしー、朱紫令真は20代から50代(多分)の変化をカツラや声音で出し、生活苦によるすさみも醸し出していた。

金本役の遥斗勇帆。切羽詰まった思惑に走る金本のを雰囲気をよく出していた。遥斗勇帆の歌声が生かせる場があるといいですね。

たくてぃ(拓斗れい)は休演からの復帰。おかえりなさいでした。


演出的には思ったのは、地上では雨がよく降っていると清彦は言っているけれど、雨の印象が薄い。清彦が傘を差していますが、雨音があまりしないこと、龍の宮の大きな満月が印象強いためかな。フィナーレでも背景に丸い大きな月が出ていたので、残るのは月の印象です。

玉姫が龍体になるところは娘道成寺を思い出しました。迫力があって美しいシーンです。

指田先生、スタッフの皆様、ありがとうございました。
星組の皆様も新生星組がんばってください。

終わり。