[Zuka] 星組新人公演『ANOTHER WORLD』

星組新人公演『ANOTHER WORLD』
作・演出 谷正純
新人公演担当 指田珠子

星組新人公演

指田先生の演出は下級生のパワーを生かしていました。キャストもハードルの高い、難しい演目だと思うのですが、作者ではない人が演出するのも難易度が高い作品だろうと思います。

演出上の改変がいくつか。

  • 冥土で康次郎(天華えま)に出会った喜六(極美慎)が「瀬を早み、岩にせかるる」と叫びながら、上手幕に走り去って、くるっと回って、に戻ってくるとか、艶冶(桜庭舞)の場面で閻魔大王様(遥斗勇帆)に「鬼どもを集めぃ」と命じられた青鬼青次郎(颯香凜)と青鬼達がダッシュで上手幕にはけて呼び戻されるとか、数か所の改変があり、その勢いが、「余ってなんとやら」感が新人公演っぽくて、面白かった。
  • 冥土では四谷怪談のお岩さんや番町皿屋敷のお菊さんが登場し、何でもあり感に拍車をかける。
  • 冥土歌劇団の演目は、「ベルサイユのはす」から「ANOTHER WORLD」に変更。谷先生の師匠が植田紳爾先生なら、指田先生の師匠は谷先生。貧ちゃん(夕陽 真輝)がポスターの「近日来園」を読み上げ、徳三郎(天飛 華音)が、あの先生まだまだお元気だぜ」、喜六が「本人はなあんも知らんと、新人公演を観てはるんやろうなぁ」といれて、大笑い。本公演も新公も「近日来園」はキャンセル、演出家不在で上演をお願いしたい。
  • (ショーで使われている楽曲「情熱の嵐」「炎」を歌っていた西城秀樹さんの死去はびっくりしました。ご冥福をお祈り申し上げます。)

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天華 えま(98期):桜華、スカピンの新公主演を経て、今回が一番良かった。実力は向上していて、ここが気になるというのも見えた。本役(紅ゆずる)より、ややゆったりしたテンポでのセリフ運び、船場言葉での膨大なセリフをこなし、ハスキーな声で歌う。1人であの大舞台に立って、物語を始めるというのは大変なことで、よくやり切ったなと思う。

ただ意識しているのか判らないけれど、本役の所作の真似と自分の所作が入り混じったり、本役から変えようとする作為、ワザとらしさ、不自然さが出てしまっていた。本役を見すぎです。こういう微妙な不自然さが観客(リピーター)に居心地の悪さを起こしやすいので要注意。お澄(星蘭ひとみ)への恋煩いの熱も余り感じられなかったのは、笑いや間合いに気を取られすぎなんだろうか。でも、これまでの新公主演の中で一番良かったと思います。

康次郎を自分のためのオリジナルキャラクターと考えて作ると良いかもしれない。セリフのひとつひとつの背景を考えてみること。

星蘭 ひとみ(101期):高校では陸上部に熱中していたということで、演劇の積み重ねが不足し、基礎部分がまだ弱い気がする。タカラジェンヌの中でも整った美貌は注目の的で、ヒロイン的な役柄は回って来やすいけれど、表情や動きが硬いために、人形のような美しさが際立ちますね。ルイ・シャルルや今回の蛇殺しの告白の場面は良かったので、男の子っぽい役が得意なのかな。演技力というより、表情を柔らかく見せる工夫、しなやかな所作など娘役力のスキルアップを。

声がソフトでとても美しく、聞いていたい声なのですが、持ち歌が多いと厳しそうな弱さも感じます。

天飛華音(102期):本役の礼真琴に所作から声まで似ていたが、声が似せられるのは声質が近いということで、歌唱力の向上が期待できそう。所作はコピーではあるけれど、中身は軸があったので、演技はほどほどに安定していて、見ていて気持ちよかった。コピーでもあっても、何か感じられるものがあるというのは、私にとっては大事なのである。ビジュアル面では鬘が合ってなくて、小粋な若旦那らしくなく、むさく感じたのがもったい。

極美 慎(100期):めっちゃ生き生きしている喜六はんでした。かいちゃん(七海ひろき)の喜六は過去を抱えたまま冥土に来ているのに対して、極美くんの喜六は冥土に来て、過去をリセットしたかのようにさっぱりした顔で冥土を楽しんでいた。作りの浅いのは浅いのだけれど、自分で考えて作っていたので、極美くんの華奢な美しさに良く合う喜六はんになっていた(華奢なんだけれど合気道有段者)。冥土はよいとこ一度はおいで、と貧ちゃんの旗持ちして、観光案内しそう。喜六はんは持ち歌がないので、それは引き続き課題なんだと思います。

遥斗勇帆(99期):落ち着いた良い声で、閻魔大王様の大きさを感じました。その上手さに、研5くらいで「専科さん」と月組子に呼ばれていた、輝月ゆうまを思い出した。これがねえ、うまくてオリジナリティもあるのに、新公主演がこないというのは、どう考えたら良いのか。雪組の叶ゆうり、星組の桃堂純ら、個性派がもったいないと思うことがある。シュッとした一般受けする男役とか、伸びしろを見るとか、成長のきっかけを与えたいとか、そういうのも理解できるけれど。。。話がずれた。

遥斗くんはもう少しビジュアルを磨いて(大王様は素顔は判りにくいけれど)、頑張っていただきたく。新公主演ではないかもしれないけれど、報われる日がきっと来ます。

夕陽真輝(101期):芝居は本役の華形ひかるに寄せていたけれど、素直な寄せ方でその分、印象が薄くなっている。歌唱力があって、阿漕姉さん(有沙 瞳)とのデュエットが聞かせました。みつるさんの役をやれたことは財産でしょう。

小桜ほのか(99期):登場時にベルリンの時のように、かっとんで全体のバランスを崩すかとハラッとしましたが、抑えてきてよかったよかった。今回は初音ミクエッセンスということで、声音を変え、大きな目と笑みの表情に何か非人間な面白味を感じました。歌のうまさ、こぶしの利かせ方はさすが。ほのかちゃんの美しいトーニャを思い出すと、轟理事の偉大さを感じます。

有沙 瞳(98期):目元メイクに工夫があり、くっきりした顔立ちがさらにくっきりと。芝居はあんるちゃんに寄せてきていましたが、経験豊富な余裕が感じられ、新公の長ということでやや後ろに下がって支えに回った感があった。貧ちゃんとのデュエットの歌い方は貧ちゃんに合わせたのか抑えめだったかも。星組に来てヒロイン的な役柄が続いていましたが、初音と阿漕姉さんは新しいタイプで、楽しそうに見える。

桜庭 舞(100期):組替え後、初の新公。やはり、はるこちゃんに寄せてきていますが、ひたむきさを感じる虞美人でした。素直なお芝居なので、いろんな役で見てみたい。キラルでもティンカー・ベルで歌っていますが、歌詞が聴き取りやすく、明るい声なのがいいです。

娘役では、於登勢(澪乃 桜季98期)、天女(瑠璃 花夏103期)、お仙(桜里 まお99期)が印象に残っているのと、染次(華雪りら98期)は、緊張からか表情が固まっているので、柔らかく豊かに見せる工夫が必要だと思いました。

男役は、阿修羅(湊 璃飛98期)はメイクが凝ってました。生きたブロンズ像なのが、すごかった。それだけで一見の価値があるリアル阿修羅。一八(天路 そら99期)はもっと出来るのではと思いました。なんだか自己主張が強かったのが右大臣・光明(天希 ほまれ98期)と左大臣・善名(朱紫 令真100期)。赤鬼赤太郎(蒼舞 咲歩99期)は優しい鬼でしたね。青鬼青次郎(颯香 凜101期)は動きが良くて、ちゃんと中身を作っている感あり。髭の金兵衛(希沙 薫100期)と朴念(音佳 りま103期)ところは大騒ぎでした。

今回の新人公演では、良くも悪くも星組下級生のパワーを感じました(おれを観ろ観ろうるさいw)。それと、これはいつもなんだけれど本公演の偉大さね。下級生はどうしても自分の役に手一杯になりがちだし、個性を発揮しようと、そこに集中が偏りがちですが、そこを敢えて自分の役柄で主演に意識を向けるのがまとまりを生み出すものだと思います。本公演ではメインキャストに求心力がありますが、新人公演ではそれをキャストが意識して真ん中に集中することで、舞台の流れを作り出す、のが大事かなと思いました。

あと、阿修羅像でも誰だか判らない鬼メイクでも役作りを自分で考えていると個性が出るものだなと言うことがよく判りました。←これがすごい収穫だった。青鬼青次郎(颯香 凜)を見て、本役の麻央侑希に物足りなさを感じましたよゆっこちゃんがんばれ。

主な配役 新人公演
康次郎 紅 ゆずる 天華 えま
お澄 綺咲 愛里 星蘭 ひとみ
徳三郎 礼 真琴 天飛 華音
閻魔大王 汝鳥 伶 遥斗 勇帆
貧乏神 華形 ひかる 夕陽 真輝
於登勢[おとせ] 万里 柚美 澪乃 桜季
金兵衛 美稀 千種 希沙 薫
喜六 七海 ひろき 極美 慎
阿修羅 如月 蓮 湊 璃飛
天女 白妙 なつ 瑠璃 花夏
杢兵衛[もくべえ] 天寿 光希 碧海 さりお
艶冶[えんや] 音波 みのり 桜庭 舞
八五郎 大輝 真琴 天翔 さくら
源頼光 輝咲 玲央 隼 玲央
朴念[ぼくねん] 瀬稀 ゆりと 音佳 りま
お仙 紫月 音寧 桜里 まお
阿漕[あこぎ] 夢妃 杏瑠 有沙 瞳
小五郎 十碧 れいや 夕渚 りょう
青鬼青次郎 麻央 侑希 颯香 凜
右大臣・光明 漣 レイラ 天希 ほまれ
一八[いっぱち] ひろ香 祐 天路 そら
染次 紫 りら 華雪 りら
赤鬼赤太郎 瀬央 ゆりあ 蒼舞 咲歩
左大臣・善名 紫藤 りゅう 朱紫 令真
蔦吉[つたきち] 白鳥 ゆりや 七星 美妃
初音 有沙 瞳 小桜 ほのか
菊奴 小桜 ほのか 二條 華