真咲さんが演じてみたかったという織田信長を主役に据えた『NOBUNAGA<信長> -下天の夢-』。
織田信長の肖像画を見ると細面な人だったらしいですが、歴史として残る信長像は、武芸を好み、神をも恐れぬ苛烈な性格であったと言われます。真咲さんはどんな信長像を創ってくるかと楽しみにしていたら、孤高に理想に邁進する王者でありました。(パンフレットの「物語」のページの信長様が睫毛がバサバサで麗しいのに髭があるというものすごいギャップで、意表を突かれました。
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開演5分前に羽柴秀吉(美弥 るりか)と明智光秀(凪七 瑠海)の掛け合いで、観劇マナーへの喚起が始まる。劇中のシリアスさとは異なり、コミカルで、二人の性格も伺えて楽しい。
さて、幕開けで、「敦盛」を歌いながら踊る白装束の信長(龍真咲)から、切り替わって真っ赤な照明の中、羽柴秀吉(美弥 るりか)を筆頭にアップテンポのロックな音楽に乗って踊る桶狭間の戦いに突入し、捕らえた今川義元(光月るう)を、信長が討ち果たす。ただし信長はこの手柄を良勝(紫門ゆりや)に譲る。
その後、浅井長政(宇月 颯)と妹・お市の方(海乃 美月)を輿入れさせて同盟を結び、妻・帰蝶(愛希 れいか)の実家である斉藤氏を滅ぼし、美濃を併呑する。
10年後、将軍・足利義昭(沙央 くらま)の後ろ盾となった信長は、比叡山でイエズス会の宣教師ルイス・フロイス(蒼矢 朋季)やオルガンティノ(千海 華蘭)、騎士ロルテス(珠城 りょう)に遭遇する。ロルテスは、イエズス会日本布教区長フランシスコ・カブラル(飛鳥 裕)に命じられ、裏から天下統一争いの主導権を握る機を窺っていた。
ここで信長は、かつては斎藤道三に仕え、現在は義昭(沙央)に連なる明智光秀(凪七 瑠海)を召し抱える。そして比叡山を焼き討ちにし、敵対するもの、逆らうものを次々と攻め滅ぼし、魔王と呼ばれ、絶頂期を迎える。
そんな信長の心を曇らせているのは、清洲城に残っている正室・帰蝶(愛希)との疎遠であった。帰蝶は、光秀の妹・妻木(朝美 絢)らをくノ一として育て、自らも長刀を操る男勝りであったが、信長が美濃を滅ぼして以来、二人の距離は開いていた。帰蝶は、妻木に、暗殺された信長の弟・信行(蓮 つかさ)の着物を信長に渡すように託す。納得がいかない妻木(朝美)に忍び込んだロルテスが近づくいていった。
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1時間半の間に設定とエピソードがこれでもかと盛り込まれる大野先生流な作品だが、イエズス会宣教師達を天下統一に絡めたアイディアは斬新で面白かった。
前半の信長を囲んで盛り上がる武将達*や、信長に忠誠を誓う弥助(貴澄 隼人)を見ていると、信長の人たらしの魅力を感じる。義元を討ち取った手柄を良勝(紫門)に譲る場面や弥助(貴澄)を奴隷から取り立て側近として手元に置いたエピソードがさりげなく挿入され、決して強欲で残忍なわけではなく、信念を持って己の道を突き進む人であることと表されている。
*(光秀:凪七、秀吉:美弥、佐久間信盛:綾月 せり、池田恒興:響 れおな、毛利良勝:紫門 ゆりや、菅屋長頼:貴千 碧、柴田勝家:有瀬 そう、佐々成政:輝城 みつる、前田利家:輝月 ゆうま、長谷川橋介:春海 ゆう、加藤弥三郎:夢奈 瑠音、佐脇良之:暁 千星)
だが、戦国の世は下克上が良しとされた時代でもある。信長の権勢が拡大し、勢いが苛烈になればなるほど、敵は増え、怨嗟の声も満ちる。そこにつけ込んだのが、イエズス会であったというのが、本作の眼目だ。
武将達を唆し、反逆に走らせるためには、陰謀側の主軸となるロルテス(珠城)が、阿片に類似した薬を使い、暗示にかけた事が窺えるが、そのあたりの描写が乏しく武将達がいきなり寝返るのが、説得力にかける。帰蝶の死もやや唐突で、クライマックスを作るために無理矢理、押し込んだ、切り貼り感が否めない。
だがロルテス(珠城)のエピソードは面白い。ロルテスは「名前のない男」であり、その出身家には忌まわしい出来事があり、裏切り者と扱われる。その生い立ちゆえの憤りと憎しみを信長にぶつけるロルテス(珠城)は、死を名誉と願う男でもあった事が明かされる。信長に相対するのは、ロルテスであるのが、本来なのであろうが、私が観た時は、本能寺の変を起こす明智光秀(凪七)に軍配が上がっていた。
「お館様」を亡き者にして、その後を継ぎ、人々の願いと恨みを背負いましょう、と眼光鋭く叫ぶ光秀(凪七)に、その覚悟を感じたのである。月組次期トップスターである珠城さんにはロルテスを一層、深めて貰えることを期待したい。