月日の経つのは早い。2016年も2ヶ月が過ぎ、今日は3月3日、ひな祭りです。
上演が決まり、制作発表会があり、配役が発表、その度ごとにに大騒ぎになる雪組『るろうに剣心』でしたが、大劇場公演は14日で千秋楽を迎えます。
早霧せいな&咲妃みゆの率いる雪組と小池修一郎氏の組んだ舞台は、期待を裏切らない出来映えで、『るろうに剣心@TAKARAZUKA』という感じに仕上がっていました。
初見での印象は、「小池先生、楽しそう」でした。
いや創造のご苦労は当然に膨大だったと思いますが!ですがね!
初っぱな、新撰組隊士をバッサバッサ斬り伏せた人斬り抜刀斎(早霧せいな)が、「また…」と呟き始めたとき、え、そこ「つまらぬものを斬ってしまった」ですか!そう来ますかと思ったら、「血の雨を降らしてしまった」と続けるちぎたさん。イントネーションおんなじな気がするんですけれど気のせいですかこれ。
これは小池先生、楽しんでるね!と思いました。
原作を4巻までとは言え、宝塚歌劇向きに割り切って仕立て直し、しかも雪組子が演じやすいように、組子の持ち味に合わせてキャラクターを脚色するというのは、座付き作家にしかできない技だと思います。それを許してくれた原作者の和月伸宏氏にも感謝しかありませんが、これまでにメディアミックスを重ねているので、表現方法が異なると原作とは違う世界観を作らなければならないというのもご理解されているのでしょう。
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原作は観劇後に4巻まで読んだが、主人公が強い敵に次々当たって乗りこえていく、という作りは典型的な週刊少年ジャンプの連載作品。
パンフレットで小池修一郎氏が2番手男役の役をオリジナルにするのは、原作者である和月伸宏氏の要望だったことを明かしているが、原作を読んで納得した。確かに4巻までだと、剣心ぶっちぎりの一人勝ちで、2番手に相応しい位置づけのキャラクターがいない。武田観柳を美形にしてグレードアップすれば何とかなるか、というくらいで、新たなキャラクターとして加納惣三郎が必要とされたのも理解できた。
さて、この望海風斗演じる加納惣三郎だが、かなり変な感性の持ち主である。
初登場は、桂小五郎(蓮城 まこと)と島原の花魁 朱音太夫(桃花 ひな)の逢い引き場面であった。手ぬぐいでほおかぶりした新選組の加納惣三郎(望海)が現れ、朱音太夫(桃花)は渡さないと叫ぶ。
しかし、朱音太夫に用意した身請け料は辻斬り奪い取ったものであることをあっさり見破られる。
つまり朱音太夫も加納にそういう危うさがあることは気付いている。
桂小五郎(連城)の護衛についていた緋村剣心(早霧 せいな)が登場し、加納惣三郎と対峙する。
剣心に追い詰められ、叫ぶ加納。「どいつもこいつも出世欲に取り憑かれた亡者ばかり。貴様、本当にそいつらが良い世の中を作るなどと信じているのか?」
そこへ加納を捕らえるために新選組の斎藤 一(彩風 咲奈)らが現れる。
バレバレじゃん。
追い詰められ、朱音太夫を人質にとる加納惣三郎。
どう見てもサイテー男だぞ、加納惣三郎。
朱音太夫を隠れ蓑にして逃げ出す加納を、「内輪の恥は、内輪で消す」と加納を追いかける新撰組隊士達。
2番手男役がここで死んだら面白いけれど、絶対に生き延びるよね。
ここまでは、加納惣三郎の青春の過ちという伝説に基づいたものと言えるが、本作での加納惣三郎は新撰組隊士から逃げ延び、鳥羽・伏見の戦いを模した幕末血風録の場面にちゃっかり登場している。
激しく髪を振り乱して、刀でざっと切り落とし。歌う。
悪鬼となりて 髪を切る
俺は隠れる 動乱の時
新しい時代 蘇るため
蘇って何すんねん!
1幕はツッコミながら見ていた加納さんですが、どんなに変でも、だいもん(望海)のビジュアルと演技と歌でだまくらかされるんですな。1幕の加納さんは剣心に対抗できるスケール感は全くない。思い込みの激しさと昏い情熱で動く、ただの人斬りである。同じ人斬りでありながら、信念を持ち揺るぎのない”人斬り抜刀斎”の落ち着きに到底及ばない。望海風斗は若造の青臭さも漂わせながら、京都に血の雨を降らせている新選組隊士として行き詰まった破れかぶれの狂気を醸し出す。
新選組は幕府側であり、旧体制を守護する側である。加納惣三郎は、幕藩体制を続けることが、”良い世の中”だと信じて新選組を選んだのか。それとも彼こそが出世欲で新選組に入隊したが、花魁に入れあげて道を外れたのか。
加納惣三郎は、小池修一郎氏のオリジナルキャラクターで、劇中では、何故そうなったのかという変容の動機や理由が全く描かれない。2幕でも、とにかく判らない人であった。これをまたスターの力業で演じきるだいもんだったよ。