[Zuka] 2015年専科『オイディプス王』(1)

演目が発表になり、先行画像の轟理事の気迫に、これは極上の舞台にしかならない、と思った『オイディプス王』でしたが、その通りでした。公演時間は90分1幕で、通常のバウ公演が120分程度なことを考えると短いけれど、内容的には90分で満たされ、主要キャストは専科+月組上級生で物足りない感じは全くなかったです。

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ギリシャ悲劇の傑作と言われる古典『オイディプス王』を上演するのは、宝塚歌劇としては新機軸だと思うが、バウホール公演はこういう実験的な作品を上演しやすい場所でもあるなと思った。それは脚色・演出が本公演と同じ小柳 奈穂子氏の『かもめ』(星組 礼真琴主演)でも思った。小柳 奈穂子氏はかなりのチャレンジャーのような気がするが、いずれのチャレンジも成功させており、その腕前が光る。

小柳氏が、轟理事主演を念頭に置いて『オイディプス王』を選んだということで、轟悠あっての『オイディプス王』だった。観劇後は「宛て書きかっ!」と叫びたくなるくらい轟悠のオイディプス王がすごい。もちろん宛て書きなわけはなく、役創りと演技が素晴らしい。さすが専科の筆頭、トップスターの中のトップ、トップ・オブ・トップ轟悠である。

→【オイディプス王に共感、1年ぶり主演作/轟悠】 日刊スポーツ 2015年8月20日

アポロンの巫女(憧花 ゆりの)の先触れがあり、コロス達(夏美 よう、他)の嘆きに呼ばれて、オイディプス王(轟 悠)は悠然と舞台に姿を現す。長衣をなびかせ、威厳をたたえた佇まい。テーバイの、彼の民を見つめる瞳は優しいが、その顔は峻厳さをたたえ、その言葉は重い。

テーバイの都は大いなる災厄に見舞われていた。疫病が広がり、作物は枯れ、家畜は死に絶えてしまった。妃イオカステ(凪七 瑠海)の弟クレオン(華形 ひかる)が持ち帰ったアポロンの神託によると、その原因は前王ライオス殺しの犯人が捕まっていない為であるという。

オイディプス自身はライオスとまみえたことはなかったが、故郷コリントスを出て、放浪の果てに辿り着いたテーバイの地で、ライオスの妃イオカステ(凪七 瑠海)を妻に迎え、請われて王に就いたことで、ライオスへの恩義も感じていたのであろう。その怒りは苛烈であった。ライオス殺しの下手人にみじめな最期をとげるように呪いをかけ、さらにその下手人を庇い立てる事を自らに禁じ、誓いを破ったときは、みずからかけた呪いが我が身にふりかかるようにと祈った。

轟悠のオイディプス王の怒りは絶品であった。ライオス殺しの犯人を突き止めると誓う轟オイディプス王の怒りは、まさに絶対君主の怒りであり、オイディプス王のうちに存在する絶大なる自信や道理と正義を盾とする姿勢、そして人の上に立つものの傲岸さまでが表され、周囲を焼き尽くすような激烈な怒りとなっていた。

その激烈な怒りにコロスの長(夏美 よう)は恐れをなし、盲目の予言者テイレシアス(飛鳥 裕)の予言を聞くように薦める。やって来たテイレシアスは、オイディプス王の問いに秘密を明かすことを拒む。己の正義を信じるオイディプス王は、何かを知っていながら隠すテイレシアスを犯人の一味であると罵倒する。嘲りを受けたテイレシアスは、オイディプス王自身が気付いていない彼自身の凶事に言及し、去って行った。

テイレシアスの言葉を聞いたオイディプス王の怒りに変化が起きる。弟クレオン(華形)がテイレシアスと結託して彼に濡れ衣を着せ、王位を狙っているとの疑いを持ち始め、怒りに猜疑心が混じっていく。

オイディプス王と妃の弟クレオンとの間に諍いが起きる。

オイディプス王の怒りには猜疑心に加えて、憎しみが芽ばえ、彼の怒りは収まる気配を見せない。妃イオカステ(凪七)が仲裁に入り、オイディプス王はしぶしぶクレオンを解き放つが、それでもなお憎しみは募るばかりであった。

この時、クレオンが去り際にオイディプス王に言う言葉が、クレオンの性格を表していて、私は気に入っている。罵られ、怒りの対象にされながらも相手を気遣う誠実さと、オイディプス王を陥れるのが他ならぬ王自身であることを見抜く慧眼ぶりが、華形ひかるのクレオンにぴったりで、適役であった。

ゆるすときになってまでも、憎しみをすてぬお人と見うけられる。
怒りに走るときのはげしさは、いわずもながだが―。
そんな気性をもっていて、つらいのはさぞかし、他の誰よりも御自分であろうに。
(岩波文庫版p.69)

続きます。

<あらすじ>

「父を殺し、母を娶(めと)る」という神託を受けたコリントスの王子オイディプスは、その神託を避けるため、父母の統べるコリントスから放浪の旅に出る。そして辿り着いたテーバイで、スフィンクスの謎を解き、前王を亡くしていたテーバイの王の座に就く。前王の妃イオカステ(凪七)を妻に迎え、二男二女を設けるが、テーバイの都は災厄に襲わる。その原因を探求する内に、オイディプスは神託の真実の恐ろしさを知る。

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ギリシャ悲劇
『オイディプス王』 ~ソフォクレス原作「オイディプス王」より~
脚色・演出/小柳 奈穂子

古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人であるソフォクレスが紀元前に書いた戯曲「オイディプス王」は、そのテーマの普遍性と、サスペンス的要素溢れた緻密な構成ゆえに、ギリシャ悲劇の中でも最高傑作として知られ、時代を超えて上演されています。
この傑作を、轟悠と専科を中心とした実力派メンバーで、宝塚ならではの演出を加えた新たな「オイディプス王」として上演いたします。

古代ギリシャ・コリントスの王子オイディプスは、自ら授かった「父を殺し、母を娶(めと)るであろう」との予言の実現を避けるため放浪の旅に出て、テーバイ国で怪物スフィンクスを追い払い、請われてテーバイ国の王となる。
前王の妃イオカステを妻に迎え幸せな日々を送るが、数年後に国を襲った疫病災厄から国を救うため、神託を乞い、「前王ライオスを殺した犯人を罰せよ」とのお告げに従ってライオス殺しの犯人を探る。その謎を解くうちに、悲劇的な真実が明らかになっていく…。