[ZUKA][stage] 『1789』アルトワ伯考

東京公演が始まった月組『1789 -バスティーユの恋人たち-』ですが、来年、東宝での上演も決定し、メインキャストのロナン役:小池徹平/加藤和樹、マリー・アントワネット役:花總まり、オランプ役:神田沙也加/夢咲ねねが発表されました。月組公演は大好きな作品になったので、東宝版も気になっていたのだけれど、メインキャストでかなり自分の中で注目度合いが上がっております。

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残りのキャストでいうと、月組では美弥るりかが演じたシャルル・アルトワ伯が誰になるか興味を持ってみている。

ルイ16世の王弟アルトワ伯は、作中では王家の絶対神聖を体現する役割を担い、「私は神」なるソングもある、権威的で権力志向が強い人である。そしてアルトワ伯は、女性をモノにするのに媚薬を使う人で、秘密警察やペイロール伯爵に支持される権謀術数の人でもある。

本来なら女性の観客にもの凄い嫌われるタイプだと思う。しかし、美弥るりかはそのビジュアルと卓抜した演技を持って、サディズム的な耽美さと妖艶さを持ちはするが、内面は見事に空っぽな虚無の王族の人というアルトワ伯を造形し、宛て書きかと言わせるほど、自分のものにしてしまった。まさに当たり役だった。

それから美弥るりかのアルトワ伯は、『1789』のキャストの中でも、女性がやる男役の良さが存分に活かされている役になっていた。こういう役を男性のキャストが力強く演じると、権力志向の武人系に傾く恐れがあり、傾きすぎると星条海斗の演じたペイロール伯爵に近づく。男性がわざと「女性的に」アルトワ伯を演じると、嫌みったらしさや媚びが出るか、「オカマ」っぽくなるか、だろうか。美弥るりかのアルトワ伯は「男役」であるがゆえに、「女性的」ではなく、娘役よりは力強いが男性が演じるほど強くはない、というところでツボにはまっていた。

周りのキャストとの兼ね合いも大事で、美弥るりかのアルトワ伯像は、美城れんが演じたルイ16世と愛希れいかが演じたマリー・アントワネット、星条海斗のペイロール伯爵、それから秘密警察のラマールたち(紫門 ゆりや、朝美 絢、輝月 ゆうま)とバランスを取っていて、フランス版は宮廷側に猥雑さや下卑た感じもあるようだが、タカラヅカ版では宮廷側にそんな雰囲気はない。

キャストから行くと東宝版はタカラヅカ版を下敷きにしたものと考えるのが自然だが、マリー・アントワネットはかの花總まりである。花總まりの少女性を残した美しさと気品は稀有のもので、お花様がメインキャストの中でも宮廷側を代表するマリー・アントワネットを演じるということは、当然東宝版『1789』でもキャストとの兼ね合いを考えるだろうから、斬新さはあっても下品さは排除されるのではないか?と考えている。

アルトワ伯はフランス版の『1789』では、そんなに大きな役ではなく、秘密警察ラマールのほうが大きかったようだが、小池修一郎氏の潤色したタカラヅカ版ではスターシステムに合わせて比重を変えてあり、出番が多い。

というような事をつらつら書くとアルトワ伯はどんな役で誰が演じるのだろう、というのが、私の目下の興味の的である。意表を突いてくれるかなぁ。今年の『エリザベート』は今のところ観劇予定はないのだが、『1789』は考えよう。楽しみとする。