2011年月組。原作は『美女と野獣』。あおきにしてはかなり手厳しく書いた。月組の演技は素晴らしいのに、脚本がいまいちで、メンバーが可哀想になった。題材は、公演期間が春休み中なので、子どもが楽しめるようにと選んだのだろうが、子どもをなめとんのか的なひどさである(怒)。
ストーリーは、ボーモン夫人の『美女と野獣』に忠実に沿っている。オリジナル箇所は、バラの王国のバラを愛する王(龍真咲)と王妃(花瀬 みずか)の間に生まれた心優しい王子(花陽みら)が野獣(霧矢大夢)の正体とした点だ。
物語の進行役は、バラの王国の家臣団である。その中でも重臣の明日海りおが、センターに立っている。家臣団は、コーラスで、バラの国の王子が野獣に変えられ、王子に忠誠を誓う家臣達も動物にされ、城を追い出されたことを歌う。
舞台に一列にずらりと並んだ家臣団によるコーラスは、綺麗に揃っていて豪華だが、最後まで家臣達は集団で扱われている。家臣団の中心となっている明日海りおでさえ、名なしの「家臣(虎)」で、どんな立場の家臣かも明らかにされない。これでは、役作りを観る楽しみがなくなり、かなり物寂しい。
また背景説明に時間をかけすぎ、主役の野獣(霧矢大夢)が登場するまでに45分ほど経過している。その後は、時間がないためか??キャスト達の行動についての心理描写や意図の表現(セリフ)がなく、全てにおいて唐突感が満載だった。
野獣(王子)の異母弟にあたる現在の王様(龍真咲)は、田舎町に住む美しい娘ベル(蒼乃夕妃)の噂を聞いていきなり求婚に行く。ベルは父の世話をしなければならないと断るが、王はベルが恥らっているとかなんとか勘違いしたのか、出直すという。自分が断られることがあるという事実が理解できないらしい。
その後、ベルの父の商人(越乃 リュウ)は、仕事の帰りに、嵐にあい、野獣の館に迷い込む。翌朝ベルへのお土産にと庭のバラを手折った途端、野獣が怒り狂って出てくる。野獣は、娘を連れてこないとお前を食ってやると脅す。
商人が、ベルを連れて館に戻ってくると、野獣は「本当に娘を連れて来るとは思わなかった」とか言ってびびり出すので、動物になっている家臣が人間に戻るチャンスなんだから、さっさとベルに求愛しろ的に言う。どいつもこいつも相手の気持ちを無視して求婚したいらしい。
ベルは、動物の家臣や野獣にもの凄い適応力を発揮し、野獣を「あなた」と呼び、バラの世話をして一緒に暮らす。それで、野獣が勇気を出して告白すると、「可哀想に思うけど、愛してはいません」と突き放してしまう。断るにしろ、もう少し言いようがあるだろうに、かなりヒドイ。
本当に原作に忠実にお話は進んでいるのに、このちぐはぐさはなんだろう。何を変に感じるのか、原作を読み直さずにはいられなかった。
原作では野獣は最初から野獣でバラの国はなく、王も王妃も家臣も出てこない。バラを手折った商人は野獣に娘を連れてこいと言われ、ベルを連れて行く。ベルは館に着いた翌日に、初めて野獣に会い、いきなり求婚され、「あなたのお嫁さんにはなれない」という言い方で断っている。
本作は原作のこのあたりのエピソードを、野獣と現在の王に分割した結果、内容がスカスカで唐突感満載の話になちゃったのだろうか。
霧矢大夢や蒼乃夕妃に、龍真咲や明日海りおも役作りをきっちりやろうとしているのは、表情や仕草、歌う姿にも良く出ていた。霧矢大夢の「もの言わない動物に」や龍真咲の「欲しいものは欲しい」は、それぞれの役柄を表していて、良い味を出して歌っていた。だが、脚本がここまでひどいと役者の努力にも限界がある、という感じである。もったいない。
救いは、商人の長女役の星条海斗と次女役の憧花 ゆりので、二人は、欲深で妹ベルをいびるのだが、その努力がまったく報われていないない姉たちという役柄を、コミカルに演じ、好演というか怪演というか、全体を引き締めていた。
【あらすじ】 バラの王国には、バラを愛する王( 龍真咲)と清い仙女の王妃(花瀬 みずか)の間に生まれた心優しい王子(花陽みら)が暮らしていた。だが、清い仙女の王妃の妹君は悪い仙女で、清い仙女の姉君を追い出し、王の後妻に納まり男の子を産む。まもなく王様は亡くなり、妹君は自分の息子を王にするため、清い仙女の息子を魔法で野獣に変えてしまう。王子に忠誠を誓う家臣達も動物にされ、城を追い出される。清い仙女は、野獣(王子)の外見に囚われず真実を見抜ける女性に出会った時に魔法は解けると告げ る。
町に暮らす商人(越乃リュウ)には、わがままで遊び好きの長女(星条海斗)と次女(憧花ゆりの)、気立てが良く美しい三女のベル(蒼乃)がいる。ベルの美しさを聞きつけた現在の王(妹君の息子:龍真咲・二役)が、求婚 にくるが、ベルは父を置いては行けないと断る。やがて商人は、迷い込んだ森の屋敷で、何者かに助けられ、歓待を受ける。嵐が去り、家に帰ろうとした商人は、庭に咲くバラをベルへのお土産にしようと手折ったところ、雷鳴が轟き、野獣が姿を現した。野獣は、せっかく助けてやったのにバラを手折るとは!と怒り狂っており、商人の身代わりに娘の一人を連れて来るようにと言うのだった。
■主演・・・霧矢 大夢、蒼乃 夕妃
ミュージカル『バラの国の王子』~ボーモン夫人作「美女と野獣」より~
脚本・演出/木村信司
- 野獣(王子):霧矢 大夢
- 商人の三女ベル:蒼乃 夕妃
- 先代の王・現在の王(二役) : 龍 真咲
- 家臣(虎): 明日海 りお
- 商人:越乃 リュウ
- 清き仙女(先の王妃): 花瀬 みずか
- 家臣(ライオン): 一色 瑠加
- 家臣(ジャガー) :研 ルイス
- 家臣(モンキー):桐生 園加
- 現在の王の家来アンリ :青樹 泉
- 商人の長女:星条 海斗
- 商人の次女:憧花 ゆりの
- 家臣(野兎): 妃鳳 こころ
- 家臣(リス): 美夢 ひまり
- 家臣(山猫): 萌花 ゆりあ
- 家臣(キツネ) : 羽咲 まな
- 家臣(シカ): 光月 るう
- 家臣(ヒツジ) : 夏月 都
- アオカケス : 沢希 理寿
- キツツキ:響 れおな
- 現在の王の母(清き仙女の妹君):彩星 りおん
- 家臣(チーター):宇月 颯
- 家臣(ビーバー):琴音 和葉
- ヒバリ : 紫門 ゆりや
- ヤマセミ:煌月 爽矢
- ヒレンジャク 輝城 みつる
- ハチドリ 珠城 りょう