[Zuka] 2013年月組『Fantastic Energy!』/『ルパン』(1)
■ミュージカル 『ルパン -ARSÈNE LUPIN-』各キャストの感想
タカラヅカ版『ルパン』のストーリーは、原作にほぼ忠実に作られている。正直に言うと、タカラヅカ版の方が、”アルベール・ド・サヴリー大尉”ことアルセーヌ・ルパンの好感度が高い。
原作の『ルパン、最後の恋』で描かれるアルセーヌ・ルパンは、誇り高く、ストイックで、秩序を重んじる理知的な「紳士」である。ただ、そういう設定で描かれるルパンに魅力を感じない。原作のルパンは、子ども達を集めて、”頭髪狩り”という私刑を行わせたり、コラ(タカラヅカ版はカーラ)に上から目線で「あなたのためだけを考えている」から「私の導きに従ってください」、とか言っちゃう、(ばりばり主観)あまり好きになれないキャラクターなのである。
これは2013年のわたしの見方で、ルパンの活躍した1900年頃(設定)は、男女平等はおろか、「人種差別はいけない」という概念も萌芽が見え始めた時代なので、仕方がないのだが、現代的視点で見れば、人物描写が浅く、文学賞の選考等で良くも悪くも言われる「人間が描けていない」という感じがする(現代の文学は、そういう意味では表現力や語彙力が豊かになっているのだろう)。
タカラヅカ版のルパンは、『ルパン、最後の恋』のアルセーヌ・ルパン像を踏襲しているのだが、嫌みにならなかったのは、脚色で原作の問題箇所が修正されているのと(”頭髪狩り”はカット)、龍 真咲が作り上げたアルセーヌ・ルパン像の魅力に負うところが大きい。
龍 真咲は、スレンダーでシャープな容姿に、シルクハット帽とマント姿が良く似合う。ルパンは、まじめすぎるほど真面目な理想主義者で、自分の盗みの才能と所業を忌まわしいと感じて、レヌル大公令嬢カーラへの恋心を打ち明けられずに悩んでいる。龍 真咲がそれを演じると、”憂いを秘めた孤高の貴公子”という風情で絵になる。
愛希れいかの演じるレヌル大公令嬢カーラ(原作から名前が変更されている)は、気さくで愛らしく、一本筋の通った女性になっている。カーラ@愛希は、親しみやすく、行動的で、女性にも好かれそうなタイプである。龍 真咲とのコンビもこなれてきて、月トップ娘役としての押し出しも堂々たるもの。
アルセーヌ・ルパンの伝記作家としてのモーリス・ルブラン@北翔 海莉は、登場人物の中では、ルパンの心情をおもんばかり、自分の気持ちをストレートに表明する唯一の人物で、タカラヅカ版モンテ・クリスト伯におけるベルツッチオ的存在である。しかしその立ち位置が、ルパンの回想を聞くという形なので、一人だけ他の登場人物とはノリが異なり、野次馬的観察者になっている。物語の語り部としてモーリス・ルブランがいるためにストーリーが判りやすくなっているのだが、役作りが難しいと思う(北翔 海莉はやはり巧いが)。
ガニマール警部@星条 海斗と予審判事フラヴィ@憧花 ゆりののコンビは、絶品。乳母ビクトワール@飛鳥 裕 とその夫ヘリンボーン @越乃 リュウもそうだが、この公演での、清涼剤である。
オックスフォード公@宇月 颯は大げさな演技が笑いを誘い、身分が高く、何不自由なく育ったクラス上流階級(国王の甥)を見事に描き出している。秘書のカーベット@沙央 くらまは、長い黒髪が似合って、ちょい悪いい男だった。カーベットも、原作より、タカラヅカ版のほうがGood!
人殺し三人組のドゥーブル・チュルク @綾月 せり、フィナール @光月 るう、プス・カフェ@紫門 ゆりやも、あだ名の割にコミカルで憎めない人たちだった。ルパンに相対した、プス・カフェ@紫門 ゆりやが、ナイフを取り出しつつ、腰が引けているのが可笑しかったよ。
今月(8月)のウィズたからづかの【フェアリーインタビュー】は星条 海斗(マギー)でした。「最後にガニマールが本当にルパンを捕まえるかどうかに注目していただければうれしいです。」とのこと!→【2009年11月のフェアリーインタビュー】
■主演・・・(月組)龍 真咲、愛希れいか
- ミュージカル『ルパン -ARSÈNE LUPIN-』
- モーリス・ルブラン作「ルパン、最後の恋(ハヤカワ・ミステリ刊/ハヤカワ文庫近刊)」より
- 脚本・演出/正塚晴彦
- グランド・レビュー『Fantastic Energy!』
- 作・演出/中村一徳
宝塚大劇場公演:公演期間:7月12日(金)~8月12日(月)