もえこちゃん、瑠風輝様、初主演&夢白あやちゃん初ヒロインおめでとうございます。こってぃ、鷹翔千空様も2番手おめでとうございます。この三人の組み合わせは『神々の土地』の新人公演の組み合わせですね。
公演時間が、幕間とフィナーレを含めて2時間10分と通常のバウホール公演(幕間含めて2時間30分)より短かったけれど、満足度の高い公演でした。コメディ風味もあるけれど、含みが重い。重いけれど、表現方法が素晴らしい。
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バウ・ロマンス
『リッツ・ホテルくらいに大きなダイヤモンド』
F・スコット・フィッツジェラルド作「The Diamond as Big as the Ritz」より
脚本・演出/木村 信司
原作は、『村上春樹翻訳ライブラリー – 冬の夢』(中央公論新社)所収のF・スコット・フィッツジェラルドの「The Diamond as Big as the Ritz」。フィッツジェラルドらしい破滅型のストーリーに木村流の味付けがなされており、狂乱の夢の中に現実に繋がる未来への希望を見出して、前向きな気持ちで劇場を後にする。
バウホール公演は若手演出家と中堅以下の生徒たちのタッグで勢いのある公演となることが多い気がするが、ベテラン演出家がきっちり設定した円熟味のある作品に中堅以下が、伸び伸び挑んでいる姿もいいものである。原作に沿って物語の軸になる部分のみを描く、割り切った構成が観客側に考察の余地を残していて、うがって考えてしまう。
文体が硬いですが、真面目に書かないといけないかなって☆彡
(あらすじ)
アメリカの大学の経済学部の学生で、人気者のジョン・T・アンガー(瑠風輝)は、親友のパーシー・グレイブス(鷹翔千空)の資金援助を得て、学生公演を開催する。ジョンが主演する公演は大成功を収め、彼の人気は高まるばかり。そんなジョンを羨ましさと憧れを持って見つめるパーシーに、ジョンはパーシーの寄付があってこその成功と感謝の意を表す。
開幕。アメリカの狂騒の20年代を表すかのような華やかで力強いダンスシーン。学生たちに囲まれ、もてはやされながらも気取らない健全な精神を持つ若者として存在するジョンと、そのジョンを複雑な歪んだ表情で見つめる異端児パーシー。
何か事件が起こりそうな予兆をもたらす幕開け。
パーシーはジョンを夏休みの間、実家に来ないかと誘う。
快く申し出を受けたジョンを故郷近くまで伴ったパーシーは、「僕の家は世界一の金持ちだ」という。経済学部に在籍するジョンはその言葉を疑うが、パーシーは取り合わない。
3人の召使いトム(松風輝)、ジム(実羚淳)、サム(水香依千)がサイケデリックな装飾が施された豪奢な車で2人を迎えに来る。驚くジョンをパーシーは邸に案内し、父アレキサンドル(悠真倫)と母クレメンタイン(美風舞良)に紹介する。ジョンはフランス国王とマリー・アントワネットのようなかつらと衣装を身につけた夫妻と住民たちから、この館を中心にした楽園の歴史を聞く。
南北戦争の頃、南部側だったこの楽園の先祖達がこの山に逃げ込んだ。飢えた先祖たちは、逃げ込んだ山からダイヤモンドが産出することを発見する。この宝石は尽きることがない。山自体がダイヤモンドなのだ。
リッツ・ホテルくらい大きなダイヤモンド!
楽園を守るために人々には秘密が出来た。
ジョンは驚くが、この邸の作りや召使い達の態度から信じざるを得ない。客間に姿を表したパーシーの妹、白いドレスのキスミン(夢白あや)に目を留める。人見知りをして客にも近寄らないというキスミンにジョンは惹かれる。
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主演の瑠風輝は歌に踊りに出ずっぱり。汗だくになって大健闘。ジョンは経済学部に在籍し、アメリカの経済への関心や一般常識的な知識を持ち、楽園でも自分のスタンスを主張する。人望あるクレバーな青年を瑠風が丁寧に演じていた。
それに対して楽園を受け継ぎ、守り抜く義務を背負うパーシーは、自由のきかない身ゆえにジョンへの憧れと妬みを裏表に持つという陰りを見せる。また鷹翔のパーシーは、運命に従いながらも事態を少しでも改善したいという熱意が醸し出されて深みを感じる。
夢白のキスミンは、楽園の秘密を疎ましく思い、客人を避けてきたが、ジョンに心惹かれ、楽園の秘密を教え、逃げてほしいと告げる。自らは楽園から出ることを考えない受け身のヒロインであるが、夢白の物怖じしない明るさや透明感が、この物語に光を与え、ラストの幕切れに繋がる。
音楽(作曲・編曲:長谷川雅大、手島恭子)が素敵で、瑠風、鷹翔、夢白の3人が歌えるのが心強い。舞台が黄金の20年代のアメリカ賛美から始まり、ジョン(瑠風輝)とキスミン(夢白あや)が現実の世界に戻り、2人で働いて生きていこうとする ” I’m Calling You” で終わるのが印象に残る。
また芝居、歌、ダンスが繋がって群舞になっていく演出の、悠真倫や美風舞良を中心とした第5場「パラダイス」や第8場「客間」の場面が面白い。若翔りつや希峰かなた、愛海ひかる、真名瀬みら達による閉じ込められた飛行士たちの群舞も勢いがある。
ジャケットにズボンというタキシードが、瑠風輝(174cm)と鷹翔千空(175cm)の高身長・スレンダー・脚長ぶりを強調している。鷹翔パーシーが瑠風ジョンの足にすがりつく演出があるが、もえこの長い足を見ていると、すがりつかせたくなる気持ちがわかります。代替りしても宙組男役の平均身長が相変わらず高い。
フィナーレの始まり、暗闇の中で、瑠風が背中からスポットライトを浴びて、ひとり立つ黒燕尾がめっちゃカッコいい。振付は羽山紀代美先生。実羚淳と鷹翔千空が最前列で黒燕尾だったり、瀬戸花まりがエトワール?だったりと、別箱の良さですね。木村先生、優しい。
宙組は職人成分多めの組な気がしていますが、公演になると粒ぞろいでバラつきが少なくていいなと思います。メインキャスト以下、みんな熱演でした。あとねえ、まりんさん(悠真倫)とあおいさん(美風舞良)がねえ面白くてうまい。乞うご期待。
初日は多分いっぱいだったと思うのですが、楽園の奇天烈さを表すための演出や山の質感を表す舞台セットも目新しくて、いい舞台でした。
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原作よりも楽園の危険度が緩和されているので、なかなかピンと来なかったが、パーシーがある失敗をした時に両拳を握りしめて登場した三人の召使い、特にトム(松風輝)の表情にゾッとして、この人たちは人を殺すことをなんとも思ってないんだなと思えました。上級生、頼もしい。