赤坂ACTシアターの初日を観劇してきました。
感想を書こうと思ったのですが。
とっても幸せな公演で、幸せすぎて言葉が出ない(笑)。
いじょ。
じゃダメだろうかダメですねハイ。
紅ゆずる演じる若き天才詐欺師フランク・アバグネイルJr.と、大規模詐欺を調べる内にフランクの存在に行き当たる七海ひろきのFBI捜査官カール・ハンラティ、そしてフランクに求婚されるブレンダに綺咲 愛里という。設定とキャストだけでも興味をそそるには十分で、開幕が楽しみだった。
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原作は、実在のフランク・アバグネイルJr.が16歳から20歳の間に起こした詐欺事件を描いた『世界をだました男 Catch Me If You Can 』(新潮文庫 フランク・アバネイル、スタン・レディング)で、2002年に映画化、2009年にブロードウェイでミュージカル化された。今回のタカラヅカ版は、ブロードウェイ版を元に小柳 奈穂子氏が日本語脚本・歌詞、演出を担当している。
時は1960年代、両親の離婚が元で家出した16歳のフランク・アバグネイルJr.は、小切手を偽造した詐取を皮切りに、パイロットや医者になりすまして世界各国を旅行し、21歳でとうとう逮捕され、華麗なる詐欺師人生は終わりを告げる。舞台のストーリーはこの4年間をメインにして構成されている。
個人的に面白かったのは、逮捕の後で、実在のフランク・アバグネイルJr.は、12年の刑期を5年に短縮され、連邦捜査局の詐欺罪の調査に従属し、それからセキュリティ・コンサルタントを設立し、大成功を収めるという。よほど手口が大胆で意表性があるものだったのと、よほど詐欺事件が多かったんだね!とか。弁護士資格はハーバード大の成績証明書を偽造して、資格試験は本当に合格しているという。本物のフランクさんは、たぶん天才型の<ピーッ>なんだろうな。
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それはさておき、物語のストーリーで重要なのは、詐欺の手口とリアリティではなかった。本作品でメインテーマになっているのは、子どもから大人へと変化する思春期のただ中にある1人の人間のリアリズムだった。
16歳の少年のもっとも身近なロールモデルは父親、人生モデルは両親だろう。フランク・アバグネイルJr.(紅ゆずる)は、明るく豪快な父親フランク・アバグネイル Sr.(夏美 よう)を敬愛していた。父と年の離れた母ポーラ・アバグネイル(夢妃 杏瑠)は小言も言うが、家庭内を切り盛りし、家事をしてくれていた。一見、平凡な家庭である。だが、母の浮気により、両親は離婚することになる。思春期のフランクは、大人達に「子どもには判らない大人の事情」と言われながら、「さあ父か母かを選びなさい」と大人でも難しい選択を迫られる。
フランクが平均的な少年だったら、離婚した親のどちらかについていき、鬱屈を抱えながらも進学し成人していくのかもしれない。だがフランクは全く平均的ではなかった。通っていた高校では、大人顔負けの体格に立派なジャケットを着れば人目を欺けることに気付き、代行で来ていた講師になりすまして授業を行って問題児になっていた。「大人達の欺瞞」に募る不満を、大人に成りすますことで晴らそうとするフランク。家を出て、ニューヨークにいこう。お金はなんとなかる。小切手に名前を書くだけだ!小切手?ただの印刷物だろう?
思考回路はまだまだ未熟、だが身体は大人並みに成長し、行動は「余計なことを考える」大人より大胆不敵で軽妙だった。パイロットはスチュワーデスの女の子達に囲まれ、世界中を飛び回る。カッコいい!制服を手に入れればこっちのものさ!
偽名を使い、次々と小切手詐欺でお金を入手し、航空会社を渡り歩くフランクの足跡は、当然の如く、FBI連邦捜査局の捜査対象になる。
FBI特殊捜査官カール・ハンラティ(七海ひろき)を中心にFBI捜査官のトッド・ブラントン(如月 蓮)、ビル・コッド(瀬稀 ゆりと)、新米捜査官のジョニー・ドラー(瀬央 ゆりあ)でチームが組まれ、小切手詐欺の犯人を追っていた。犯人の大胆で巧妙な手口に魅了され、時間を忘れて捜査に打ち込むカールに呆れるトッド達。捜査官も人の子さ。クリスマス・イブには待つ人がいる家に早く帰りたい。ハンラティ?ハンラティはさぁ。ああ、奥さんに逃げられちまったからな。
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フランクはパイロットを騙りながらも、父とは連絡を取り、会っていた。酒浸りになっていく父は、パイロットの制服を着るフランクを褒める。偽りの世界を生きるフランク・アバグネイル シニアとジュニアの父子。
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犯人が滞在しているホテルの一室に強制捜査に入ったハンラティは、特殊捜査官「バリー・アレン」を名乗る男に遭遇する。それは逃れる機を狙うフランクだったが、ハランティは自分が想定していた60歳くらいの犯人像とは異なる若い男性に戸惑い、言葉を交わし、「バリー・アレン」を外に出してしまう。
そして逃れたフランクは、クリスマスの夜にハランティに電話をする。話しながらハンラティは気付く。「バリー・アレン」というマンガの主人公から取った偽名を名乗る青年は、まだ子どもで大胆不敵に見えた手口は、子どもの向こう見ずさが入り混じったものだったと。
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ハンラティがフランクに追いつくのは、医師を騙っていたフランクが看護婦であったブレンダ(綺咲 愛里)と結婚しようとしている時だった。ブレンダに空港で落ち合う手はずを告げてフランクは逃げ出す。何が起こったのか。フランクを捕らえようとするハンラティ達に事実を聞き、ブレンダは涙する。
ブレンダに求愛するフランクは、尻込みする彼女に、「信じて貰いたいなら、自分自身を信じなきゃ!」と情熱的に語りかけてくる若者だった。ブレンダはフランクに勇気づけられ、プロポーズを受け入れる。そしてフランクは、ブレンダに語りかける自分自身の言葉に何を感じていたのか。
ブレンダは熱心なルーテル教徒で、明るくフレンドリーな両親(ロジャー・ストロング:悠真 倫、キャロル・ストロング:毬乃 ゆい)の元で育ち、真面目で誠実に、嘘をつく必要の無い世界に生きていた。
「私にとって彼はただの孤独な少年だった。
彼は優しく紳士的に私の心を呼び覚ました。
私は彼が飛ぶのを見たい。My baby」
(Fly, Fly Awayの直訳で、舞台中で歌われていたものではない)
フランクの心を呼び覚ましたものは、過去の自分の周りにいなかった大人達、ハランティの不器用な真摯さ、ブレンダの健気なひたむきさだったような気がする。
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構成は、ブロードウェイ作品らしく、リアリティは全く重視せず、詐欺の手口は大ざっぱに描き、星娘達が演じるミニスカのスチュワーデスやナース達の華やかなコーラスで目眩ましをかけられて、あれよあれとスピーディに軽妙に物語が進んでいく。このスピード感と軽やかさを作り出しているのが、紅ゆずる。ただ軽いわけではなく、好奇心と期待感を乗せ、かつその裏に繊細さを潜ませて、スピーディに世界を動かしていく。
紅ゆずるは、これまでは柚希礼音の2番手として、その対比的な役どころか副官的な役どころを見てきたけれど、コメディエンヌないつもの顔で、誠実で丁寧にお芝居を作り込む人だということがあらためて判った。その誠実で丁寧な役作りが、リアリティを重視しない構成にリアリティを持たせる。軽さと偽りの中のリアリズム。本作を紅ゆずるにあてた小柳氏のキャスティングの妙だ。
夏美ようの強面父さんぶりも構成に重みを与え、凋落し、酒浸りになる悲しみや息子を止められなかった無力さへの嘆きも醸しだし、キャスティングがはまっていた。ハッチさん、これが終わったらお休み取れるのでしょうか。お願いですから元気で長く続けてくださいね。
紅ゆずるのフランクが作る軽妙でスピーディな世界とは全く違う世界を作り出していくのが、七海ひろき。着崩したよれよれのスーツにメガネのFBI捜査官ハンラティは、不器用な真摯さで事件を追いかける。男役を率いて歌い踊る大ナンバー”Don’t Break the Rules”は、熱くパワフルで、It’s so cool!! 七海ひろきのパッションに魅了された。
この2つの世界が折り合いをつけ、繋がっていくラストが盛り上がる。
七海ひろきの歌唱力は、TOP HATでかなり向上し、あと一歩まで来た気がするが、お芝居の中での大ナンバーは技術があれば歌えるというものでもないと、七海さんの歌にいつも思う。ただショーはまた別なので、こればっかりは、がんばって欲しい。キャッチ・ミーを観て、七海さんのお芝居がすごく好きだと深々と思った。星組デビューおめでとうございます。
2幕から登場する綺咲 愛里は、ブレンダの年齢設定がフランクより年上という難しさもあってか、まだちょっと役を掴み切れていないかな、という印象を受けた。だが、ソロで歌うFly, Fly Awayで、情感豊かに、フランクを愛しいと思う心と彼を警察に引き渡す葛藤を見事に歌い上げて、ヒロインとして花開いた。
生オーケストラの臨場感は世界に重みを持たせ、舞台の2階に立つ指揮者と演奏者達の姿が、映画的な奥行きを舞台に持たせていた。宝塚歌劇関係の舞台は生オケが多くて、贅沢な気分である。嬉しい。
一気に書いたので、書き残しもあるけれど、梅芸ドラマシティでも観劇予定なので、ひとまずここまで。間違い等のご指摘は、メールフォームでお願いいたします。
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ミュージカル
The Musical
Based on the DreamWorks Motion Picture
Book by Terrence McNally
Music by Marc Shaiman
Lyrics by Scott Wittman, Marc Shaiman
原作映画/ドリームワークス
脚本/テレンス・マクナリー 作詞・作曲/マーク・シャイマン 作詞/スコット・ウィットマン
日本語脚本・歌詞、演出/小柳 奈穂子
“CATCH ME IF YOU CAN is presented through special arrangement with Music Theatre International (MTI).
All authorized performance materials are also supplied by MTI.
421 West 54th Street, New York, New York 10019 USA Phone: 212-541-4684 Fax: 212-397-4684 www.mtishows.com”
1960年代に世界中を騒がせた実在の天才詐欺師フランク・アバグネイルの自伝をもとに、2002年スティーヴン・スピルバーグ監督、レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクスという豪華キャストによって映画化され大ヒットした「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」。2009年にミュージカル化され、2011年のブロードウェイでの上演時には、トニー賞4部門にノミネートされるなど大好評を博しました。このミュージカル「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」が、いよいよ宝塚歌劇の舞台に登場します。
パイロットや医者、弁護士に成りすまし、偽造小切手の詐欺で大金を手にした若き天才詐欺師フランク・アバグネイルの生き様を、彼を追い続けるFBI捜査官カール・ハンラティとの軽妙な駆け引きを交え、ポップな音楽や迫力あるダンスシーンを散りばめて描くミュージカル・コメディ。