[Zuka] 2015年宙組『王家に捧ぐ歌』

すっかり1週間に一度の更新になっていて、月組『1789』の最終感想も書かなきゃなんですが、始まってしまいました。宙組『王家に捧ぐ歌』。

宙組新トップコンビ朝夏まなと様、実咲凜音様、宝塚大劇場お披露目公演おめでとうございます。ポスターも素晴らしい出来映えで、前夜祭やお稽古場映像を見ても、もう宙組子の気合が溢れていて、楽しみで仕方がなかったです。

追記:真風涼帆はやはり只者ではなかった伝説が生まれました(私の中で)。

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遡ること4500年前、エジプトとエチオピアは、戦いに明け暮れる敵同士であった。だが、エチオピアは大国エジプトに押され気味で、エチオピアの王女アイーダ(実咲 凜音)は、エジプト軍の若き武将ラダメス(朝夏 まなと)によって捉えられ、エジプトの囚人となっていた。

エジプトは、領地を広げている。ラダメスは、ファラオ(箙 かおる)から、エジプトの新たなる将軍が告げられるのを待っていた。彼には大望があった。王女アイーダとの出会いによって彼の心に生まれたエジプトとエチオピアの和平への希求を実現させるのだと。

朝夏まなとのラダメスは、真っ直ぐな眼をして、真っ直ぐに自らの想いを語り、自らの理想を求める。

アイーダは、戦うことしか知らぬ戦士であるラダメスに、全く違う視点で切り込んでくる。

「戦いは 新たな戦いを生むだけ!」

アイーダ(実咲 凜音)と囚人の女官達は故郷エチオピアを想う。青い空、風にそよぐ緑の草原、踏みしめる大地を。敵国であっても、小国であっても、そこにも人は根づいて、たくましく生きていく。宝石や財宝や美しい衣服がなくとも、アイーダは美しい。大国に蹂躙されながらも、人としての誇りを保ち、地位や名誉や見栄ではない、自分自身の価値観を持って、生きている。

ラダメスは考える。アイーダの信念が正しくとも、エジプト人として、エジプトの武将として、出来ることはエチオピアに勝ち、その上で、和平を取り結ぶことだ。

朝夏ラダメスには、将軍という地位や名誉への欲求ない。彼が見据える先にあるのは、エジプトとエチオピアの和平と大地の豊穣、そしてアイーダの幸福。ただそれだけであった。

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朝夏まなとのラダメスが、真っ直ぐに、直球で、「愛」を投げてくる。朝夏ラダメスの愛は、全てのものを癒やし、包み込み、認め合うための愛だ。ラダメスにとって、アイーダは、自分に新たなる世界を見せ、戦いで乾いた心に希望の光を灯した。戦いがなくとも、地位がなくとも、お金がなくとも、強さがなくとも、お互いを認め合う愛があれば人は顔を上げて生きていけると。

1幕最後で、ラダメスの大ナンバー「世界に求む」を歌い上げる朝夏まなとは、一人で、観客と組子の心を鷲掴みにして持っていったな。それまでの全てが、あの場面に集約された。いやもう凄かった。

そして実咲 凜音のアイーダが、実はまだ大量の持ち歌に苦戦していて、探り探り歌っているような感じがあり、本領を発揮しきれていないのだが、朝夏ラダメスに響き合って、素晴らしいアイーダを構築しつつある。真摯で切なくて、暗闇を手探りで歩きながら、必死で光を探している、生きるために。

この朝夏ラダメスと実咲アイーダに呼応する、伶美 うららのエジプト王女アムネリスも息をのむのだが、ちょっと置いておいて。

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実咲アイーダを取り囲む、エチオピアの者達、兄ウバルド(真風 涼帆)やアモナスロ王(一樹 千尋)は、「狂気の王」達なのであるが、どうも、ただ敗北したエチオピア王に惨めに死なれると座り心地が悪かった(一樹千尋が上手すぎて、アモナスロ王が惨めすぎると感じる)。ファラオ(箙 かおる)の暗殺というのは、それは敗北した者が強大な勝者に対して取り得る、ほぼ唯一の逆転手段なので、エチオピアの怒りと報復には、理はあるので。

考えたのは、宙組『王家に捧ぐ歌』の大テーマである「愛」に対になるものは何だろう、と。

怒りか、憎しみか、悲しみか、狂気か。

少なくとも「死」ではない。※愛と死は別の作品です。

個人的には、エチオピアの王達には誇り高く倒れて欲しい。
個を捨てて、わたくしを捨てて、家族を捨てて、大国エジプトに徒手空拳で立ち向かおうとしたエチオピア人として。美しい青い空と風にたなびく草原、踏みしめる大地とそこに生きる人達、エチオピアという国土への愛を全うしようとした者として。

愛を持って、愛を踏みにじろうとする者への怒りを持ち、誇り高きエチオピア人として。

朝夏ラダメスの大いなる愛とバランスを取るには、それくらいの勢いでないと、と思いました。※個人の感想です。「狂気」を理由にしてしまうと、矮小化された惨めな死のように感じてしまった。そうじゃなくて。

エジプト人にはエジプト人の愛があり、エチオピア人にもエチオピア人の愛がある、と。

 

アモナスロ王の死に様が大事だと思います。※個人の感想です。←しつこい。

 

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フィナーレ必見!

密かに爆笑していたのは私です。
みりおんに、あんな色っぽく賑々しくしく、スゴツヨ歌わせて!

囚人は仮の姿なんですのよ、うふふ、っていう感じの宙組トップ娘役様でした。

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主演 朝夏 まなと、実咲 凜音

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グランド・ロマンス

『王家に捧ぐ歌』
-オペラ「アイーダ」より-
脚本・演出/木村 信司
イタリアの大作曲家ヴェルディの円熟期のオペラとして有名な「アイーダ」を、宝塚バージョンとして新たな脚本、新たな音楽で上演した本作品は、2003年に星組で公演されて好評を博し、第58回芸術祭優秀賞を受賞しました。今回が12年ぶりの再演となります。
エジプトと敵対するエチオピアは、ラダメス将軍率いるエジプト軍によってまさに崩壊状態に陥っていた。しかし捕らわれた王女アイーダにラダメスは心惹かれ、彼女を助けるために許婚のアムネリスの侍女とする。最初は敵国の将軍であるラダメスの求愛に反発していたアイーダだったが、すべてを賭けて愛を貫く彼を次第に受け入れていくようになる。しかし、二人の関係を知ったエジプト国王やアムネリスが、当然それを許すわけはなく……。古代エジプトを舞台に、エジプトの若き将軍ラダメスとエジプト軍に捕えられ奴隷となったエチオピアの王女アイーダとの悲恋を、華やかにドラマティックに描く。
なお、本公演は宙組新トップコンビ朝夏まなと、実咲凜音の宝塚大劇場お披露目公演となります。