『逆転無罪の事実認定』(原田國男 勁草書房) を読んでいる。逆転無罪とは裁判で出た有罪判決が、上訴審(控訴審または上告審)で覆ること。ちなみに、宙組版『逆転裁判3』とは全く関係がないです)。
本書の対象として、編集担当された勁草書房の鈴木クニエさんは、「端っこが一般に開いた本」と仰っていますが、いろんな人に読んでほしい!めっちゃ良書!!基本は、法律関係の実務家、法科大学院生、法学部生に加えて、裁判や栽培員制度に関心がある人向けとして出版されております。
日本の刑事裁判の有罪率は 99%と言われており、ほぼ起訴=有罪である。これには「間違いなく有罪であると認められる事件だけ起訴しているから」という意見もある。
だが、本当に「間違いがない」ことがあるのだろうか?
本書は、著者が東京高裁に裁判官として勤務していた8年間に言い渡した逆転無罪のうち、20事件を紹介したものだ。構成として、Ⅰ「刑事裁判へのメッセージ」で、裁判の手続きやえん罪をふせぐための審理のあり方について語り、Ⅱ「逆転無罪の事実認定」で20事件の判決文と共に、著者が一つ一つの事件について、”なぜ逆転無罪の判決になったか”を解説している。
“なぜ逆転無罪の判決になったか”は、本書のキモ。最初は、著者のウイットに富んだ文章とわかりやすい事件の経過説明で、小説より奇なりだなぁと面白く読んでいたのだが、だんだんコワくなってくる。なにせ、「Cは、警察官からほかの3人も被告人(が犯人*)と言っている旨説得されてそう述べたというのである」とか書いてあるのである。証言って「警察官から」「説得」されて言うものなのかい。コワイ。*引用者付記
「えん罪(冤罪)」というのは、自分の身に覚えのないことを、「おまえがやっただろう」と言われる。えん罪は様々な要因で起きている。被害者や関係者・証人のウソ、勘違い、思い込み、鑑定ミスなどもある。ゆえに、誰にだってえん罪が降りかかってくる可能性はあるわけだ。痴漢えん罪事件が良い例である。
著者は痴漢えん罪について、こう述べる。
・・朝、元気に妻に送られて出かけた夫が、満員電車のなかで被害者から間違って腕をつかまれ、駅事務所に連れていかれ、夕方には留置場に入れられ、会社は首になり、家族は崩壊するというおそろしいことも起こる。痴漢えん罪事件は、国民に身近なえん罪のおそろしさを教えたと言える。
もちろん、「痴漢は犯罪」であることが認識されるようになったことは喜ばしい。だが、えん罪になってしまうのは、被害者にとっても本意ではないだろう。痴漢えん罪を防止するために、著者は、「被害者の供述に頼るだけではなく、客観的な証拠を収集すべきである。たとえば、指に付いた粘液の分析や被害者着衣の繊維等の分析が不可欠であろう」と指摘する。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則にのっとり、逆転無罪を言い渡した裁判官の弁は、すごく最もである。
でもね、一般人的感覚だと、「潔白だったら逮捕されないでしょ」、「そのくらいは当然調べてるから、有罪なんでしょ」というのもある。その辺のズレが、とってもコワイんだなぁ。法律業界って整然と間違いなしのようで、実際はものすごく人間的な営みなので…。
本書は、裁判員候補のハガキが届いた人には、必携の書。読むべし。
あとは、捜査側の全面可視化(録画・録音)でしょ。←ここバリ私見です。
逆転無罪の事実認定 原田 國男 勁草書房 2012-07-06 by G-Tools |