マーガレット・ミッチェルの『Gone With the Wind』は、1936年にアメリカで出版され大ベストセラーになり、その3年後に公開された映画はアカデミー賞9部門を受賞する世界的大ヒットとなった。宝塚歌劇版『風と共に去りぬ』では、1977年に月組で初演して以来、 繰り返し再演され、『ベルサイユのばら』に次ぐ人気演目となっている。今回の宙組公演は、ヒロインのスカーレット・オハラを、男役の朝夏まなと・七海ひろきが役替わりで演じ、スカーレットを愛する主人公レット・バトラーを宙組トップスター・凰稀かなめが演じる。
『風と共に去りぬ』は観劇初心者に向いている演目だと思う。美人もいっぱい出るし、お薦めだ。
新潮文庫から発行されている『風と共に去りぬ』は、次のような文章で始まる。
スカーレット・オハラは美人というのではなかったが、双子のタールトン兄弟がそうだったように、ひとたび彼女の魅力にとらえられると、そんなことを気にするものは、ほとんどいなかった。その顔には、フランス系の「コースト」貴族の出である母親の優雅な顔立ちと、アイルランド人である父親の赤ら顔の肉の熱い線とが、目立ちすぎるほど入りまじっていた。
しかし、さきのとがった角張ったあごなど、奇妙に人をひきつける顔だった。目は、茶のすこしもまじらない淡碧(うすあお)で、こわくて黒いまつげが、星のようにそのまわりをふちどり、それが目じりへきて心もちそりかえっていた。その上に、黒くて濃い眉が、ややつりあがりぎみに、マグノリアの花のように白い肌に、あざやかな斜線をひいていた。『風と共に去りぬ(1巻)』(マーガレット・ミッチェル、大久保康雄・竹内道之助訳、新潮文庫)
この描写だけで、”スカーレット・オハラ”という女性の魅力を感じ取ることができる。大久保康雄・竹内道之助による名訳である。
で、朝夏まなとのスカーレット(Aパターン)を観てきた。タカラヅカ版は初見だが、原作と映画は10代に読んだ記憶がある。加えて、映画でスカーレットを演じたヴィヴィアン・リーの伝記(文春文庫・絶版)まで持っている(たぶん当時、はまっていたのであろう)。
スカーレット・オハラは、アメリカ南部ジョージア州の農園主の娘として何不自由なく我が侭に奔放に育つ。片思い中のアシュレー・ウィルクスが、メラニー・ハミルトンと婚約した腹いせに、勢いでメラニーの兄チャールズと結婚したが、チャールズは南北戦争で戦死してしまう。寡婦となったスカーレットは、メラニーとその叔母ピティパット・ハミルトンが住むアトランタに移り住むことになる。
舞台はここから始まる。
南北戦争による特需にわくアトランタ。故郷タラから列車でアトランタに到着するスカーレットを迎えにきたメラニー@実咲 凜音は、レット・バトラー@凰稀 かなめと出会う。軍需品の貿易で大もうけし、娼館の女主人ベル・ワットリング@緒月 遠麻を愛人に持つ、バトラー@凰稀は、南部の社交界では冷ややかな目で見られていた。だが、メラニー@実咲は暖かで親しみのある笑顔でレット・バトラー@凰稀 に接する。レット・バトラー@凰稀のほうは、タラで出会った美しく類いまれなる勇敢さを持つスカーレット@朝夏に再会したことを歓び、強引なアプローチを仕掛ける。
邦題『風と共に去りぬ』の原題である『Gone With the Wind』は、アメリカの詩人アーネスト・ドーソン作の「シナラ」から引用されている。その意味は、アメリカの南部文化が、”南北戦争という「風」と共に去った”ことであるという。
タカラヅカ版もその原作に沿い、奴隷制や南部の伝統を重んじる社交界の婦人達(大海 亜呼、風羽 玲亜、天玲 美音)や南部文化を守るために「正義の戦争」に赴く青年達(蓮水 ゆうや、七海 ひろき、澄輝 さやと、凛城 きら等)とそれを支える令嬢達(愛花 ちさき、すみれ乃 麗、伶美 うらら等)を登場させる。商用で各地を旅し、情勢に明るいレット・バトラー@凰稀は南部の敗北を予想し、その光景を冷ややかに見ている。スカーレット@朝夏は、戦争にアシュレ@悠未 ひろを取られてしまっていることに傷心である。
長大な原作を手際よくさばき、1幕目の前半部分だけで、これだけの人物を登場させ、それぞれの立ち位置や社会情勢を察することができるようになっている植田 紳爾氏の脚色は見事である。またスカーレットの分身である「スカーレットII」を登場させて、スカーレットの本音を語らせているのが、女性が本音を語れないアメリカ南部の封建的な社会を浮き上がらせている。どちらかというと、奴隷制や人種差別といった南北戦争の発端となった問題よりも、「女性の自立」に焦点が当たっているのが、タカラヅカ的な脚色の良さだと思う。
初演からスタンダードな型は変わっていないようで、凰稀 かなめが歌うナンバーは昭和歌謡っぽくて耳に残りやすく、話の進むテンポも緩急がある。舞台転換も少なく、ストーリーは理解しやすい。そういう意味で、『風と共に去りぬ』は観劇初心者が足を運びやすい演目だろう。(『ベルサイユのバラ』は名場面集的な要素が強いので)。南北戦争や奴隷制度の問題などの歴史的背景を多少でも知っていると、より風共の世界に入り込める。
各キャストの感想はまた後日。
■主演・・・凰稀 かなめ、実咲 凜音
宝塚グランドロマン『風と共に去りぬ』
Based on GONE WITH THE WIND by Margaret Mitchell
Copyright © by GWTW Partners LLC
原作/マーガレット・ミッチェル
脚本・演出/植田 紳爾 演出/谷 正純
■宝塚大劇場公演:公演期間:9月27日(金)~11月4日(月)
■主な配役 :出演者(新人公演)
- レット・バトラー:凰稀 かなめ(蒼羽 りく)
- スカーレット・オハラ :朝夏 まなと・七海 ひろき( 花乃 まりあ)
- アシュレ・ウィルクス: 悠未 ひろ・朝夏 まなと( 桜木 みなと)
- メラニー・ハミルトン:実咲 凜音 (伶美 うらら)
- マミー:汝鳥 伶( 瀬音 リサ)
- ミード博士:寿 つかさ( 美月 悠)
- ミード夫人: 鈴奈 沙也 (愛白 もあ)
- ピティパット: 美風 舞良 (真みや 涼子)
- メリーウェザー夫人: 大海 亜呼 (結乃 かなり)
- ベル・ワットリング: 緒月 遠麻 (愛月 ひかる)
- ジョージ:蓮水 ゆうや (星月 梨旺)
- スカーレットII :純矢 ちとせ・伶美 うらら( 彩花 まり)
- 令嬢 :愛花 ちさき
- ルネ :悠未 ひろ・七海 ひろき(和希 そら)
- リンダ :花音 舞(花咲 あいり)
- エルシング夫人: 風羽 玲亜( 風馬 翔)
- 司会者:天風 いぶき( 夢月 せら・潤奈 すばる)
- 令嬢 :花里 まな
- ワイティング夫人: 天玲 美音(星吹 彩翔)
- スタンレー :澄輝 さやと (実羚 淳)
- プリシー: 綾瀬 あきな( 瀬戸花 まり)
- ファニー :すみれ乃 麗(小春乃 さよ)
- ウィリー :凛城 きら (留依 蒔世)
- ピーター :松風 輝(穂稀 せり)
- チャーリー :愛月 ひかる (瑠風 輝)
- フィル:星吹 彩翔 (秋音 光)
- 夫人:瀬音 リサ( 里咲 しぐれ)
- 令嬢: 愛白 もあ
- 青年: 蒼羽 りく
- マリリン :結乃 かなり (桜音 れい)
- 北部の淑女: 夢涼 りあん
- 青年: 風馬 翔
- 青年: 美月 悠
- 北部の紳士: 星月 梨旺
- 北部の紳士: 春瀬 央季
- ベティ :咲花 莉帆( 華雪 りら)
- 青年: 桜木 みなと
- 夫人: 彩花 まり (花菱 りず)
- 令嬢 :真みや 涼子
- メイベル: 純矢 ちとせ・伶美 うらら (遥羽 らら)
- 青年: 和希 そら
- 令嬢: 瀬戸花 まり
- 令嬢 :花乃 まりあ
- (新人公演)令嬢
- 夢涼 りあん
- 愛咲 まりあ
- 咲花 莉帆
- 涼華 まや
- 美桜 エリナ
- (新人公演)青年
- 春瀬 央季
- 朝央 れん
- 七生 眞希
- 留美 絢
- 貴姿 りょう
- 水香 依千