ナルシス・ノワールとは、実際には存在しない花、黒い水仙を指すという。フランス語である。ロマンチック・レビュー『ナルシス・ノアールII』は、1991年に星組で上演されたものを、雪組版に構成しなおしたレビュー。
『ナルシス・ノアールII』は、「ゴージャス」とか、「アンニュイ」、「ムーディ」と言った近年、あまり使わない言葉を思い出す、ノスタルジックな香りを漂わせたレビューでした。お衣装は、ナルシス・ノワールの象徴として、パープルや紅色がふんだんに使われていた。そして、壮一帆がまたノスタルジックで情緒的なムードを醸し出すのが、巧いんだ。
このレビューのノスタルジックな、情緒たっぷりの雰囲気はなんだろうと考えていた。あでやかな異国情調もありながら、ゆったりとした耽美調の楽曲で、歌詞はちょっと湿っぽい。そうだ、ムード歌謡だ。戦後、未来や復興への夢を乗せて歌われた素朴なポップスや歌謡曲。昭和の高度経済成長期を経て、バブルの崩壊。失ったものも多いけれど、このような時代がなければ、素晴らしいレビューの数々は生まれなかった。人は生きていける、本道を見失わなければ。
ムード歌謡(ムードかよう)は、第二次世界大戦後、とくに1952年(昭和27年)の進駐軍の撤退以降の日本で独自に発達したポピュラー音楽のスタイル、ジャンルのひとつである。ハワイアン、ジャズ、ラテンをベースにした歌謡曲であり、いずれもダンサブルな音楽である。(wikipedia ムード歌謡)
壮一帆は昨年末の花組枠で出演したタカラヅカスペシャル2012で、すでにゆらぎないトップスターの輝きを放っていたが、ますます輝きを増し、安定感が半端ない。トップが揺らがないと、組子も伸び伸びするのだなぁと、レビューを観て思った。
娘役では、組長梨花ますみ、麻樹ゆめみ、早花まこのベテラン勢がしっかり抑え、星乃あんり、桃花ひな、夢華 あみが若手として伸びているので、期待が高まる。
男役若手では彩風 咲奈が、『若き日の唄は忘れじ』では島崎与之助、レビューでは妖精パックからロケットのセンターまでをこなして、力を付けてきている。夢乃 聖夏はまだまだ自分の素で演じていて、たまに素のみで押し切ろうとする時があるので(ともみんらしいけど)、もう少し違う顔を観てみたい。一度、どっぷりとした黒い役をやってみるとか、そういう機会があれば良いんだけどね。中堅どころに入りつつある、蓮城まことと香綾しずるは、それぞれの個性を突き詰めてみるともっと素敵に輝けそう。
ベテラン勢では、やっぱり未涼 亜希がすごい。愛加あゆが扮するヴィーナスに恋をするアラビアの王子、ロックな若者まで身にまとう雰囲気をがらりと変えてくる。この「身にまとう雰囲気を自在に操る」というのは、「役柄を演じきる」ということで、壮一帆は、これが際立って巧いと思っているのだが(素は”ドSなえりたん”です)、未涼 亜希も、その領域に入りつつあるようだ。なんかね、白い王子から、紳士、革ジャン着たロックな若者にくるくると切り替わる、まっつ(未涼)に釘付けになちゃったりしたわけです。すごかー。
ロマンチック・レビュー『ナルシス・ノアールII』
作・演出/岡田 敬二