[book]ヒーローを待っていても世界は変わらない

ベルばら脳からの脱出を図るため、湯浅誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版)を読み始める。

「民主主義というのは面倒くさいものだ。そして疲れるものだ。その事実を直視することから始めよう」という前書きで、おお、ヤン・ウェンリーと銀英伝脳が反応した。そういえば、銀英伝@TAKARAZUKAの感想を書いてないな。。。oO (博多座の銀英伝は、かいちゃん(七海ひろき)のオーベはどんな様子かなぁ。気になる。)

あ、いやいや(///ω///)。本題。

湯浅誠は、2008年の『年越し派遣村』の”村長”、元内閣府参与であり、ホームレスなどの生活困窮者の支援を行うNPO法人 自立生活サポートセンター・もやい事務局長として知られる。

本書は、貧困問題に取り組んでいた湯浅が、管直人元総理の依頼により、内閣参与として参加した政治の現場で経験した立場で書いたものだ。

湯浅誠は本質を捉えて言語化することができる、卓越したコンセプチュアルスキル(概念化能力)を持つ人だと思う。文章は話し口調で読みやすく、言葉は平易でストレート。湯浅が経験し、感じたこと考えたことを、飾り気なく、シンプルに語る。にも関わらず、内容は、具体的でシビアであり、本質的だ。

実際に政治に携わってみてわかったこと。政治の現場は、あらゆる利害関係が複雑に絡み合い、限られた予算を巡って要求がせめぎ合う利害調整の場であり、政策実現は妥協に妥協を重ねた産物。民間の「濃く、だけど狭く」と、行政の「広く、だけど薄く」は対照的ではあるが、一概にどちらが悪いとか、どちらかが優れているとは言えない。

だが、「決められる政治」を望むあまり、「個々の政党・政治家への不信」という政治不信から、民主主義の仕組みそのものがダメだという「政治システムに対する不信」に発展したことを「発見」する。本書はその民主主義のゆらぎ-空洞化・形骸化に対する強い危機感から発生している。

湯浅は、民主主義をどう定義しているか。これが、斬新で、唸った。

民主主義とは、高尚な理念の問題と言うよりはむしろ物質的な問題であり、その深まり具合は、時間と空間をそのためにどれくらい確保できるか、というきわめて即物的なことに比例するのではないか。(p.85)

面倒くさい話です。人と人が出会う場、関係のないところに関係を創る場、人と人の関係を結び直す場づくりというのは、面倒くさいものです。その面倒くささは、民主主義の面倒くささに通じます。(p.134)

民主主義は、時間と空間の問題だと言いました。空間作りが場づくりです。そこには人々が話し出すための工夫、仕掛けが必要です。(p.134)

最初は、民主主義と「時間と空間?」と怪訝に思ったが、読み進むうちに、「ソーシャルワーク」という単語が出て来て、「地縁」「社縁」についで「無縁」という言葉が出て来て、超絶、納得した。この時の気持ちは、北島マヤ演じるヘレン・ケラーが、「ウォーター!!」と叫んだ瞬間、あるいはまさしく「蒙を啓かれた」というような感じ(笑)。

湯浅が目指しているのは、人と人、地域と人との関係づくり。つまり、彼が貧困問題で定義した、貧困=『“溜め”がない』状態の改善あるいは解消だ。貧困問題から始まって、民主主義にたどり着き、そして貧困問題にかえる。社会保障と民主主義は分かちがたく結びついているものだから、当然の帰結かもしれない。えーっと、自分は納得できたらいいや、というかなり自己満足な感想になりました。しつれい。

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追記:『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』(岩波新書)では、湯浅誠は、「貧困とは、このようなもろもろの“溜め”が総合的に失われ、奪われている状態である」と定義した。この言葉を読んだ時、素直に納得した。「そうか、溜めかぁ」。

貧困とは単なる金銭の欠乏ではない。頼りにすることができる人間関係や自分に自信が持てるー自己効力感があることも含めて、有形無形のさまざまな『“溜め”がない』、ことをいう。アマルティア・センは、貧困を「潜在能力capabilityの剥奪」と呼んだが、日本人であるあおきには、『「溜め」がない』というほうがしっくり来た。

湯浅はいう、「“溜め”は、外界からの衝撃を吸収してくれるクッション(緩衝材)の役割を果たすとともに、そこからエネル ギーを汲み出す諸力の源泉となる」。これで、「溜め」を「余裕」とか言っちゃうと共通言語にならない。誰しもが余裕のないご時世なので、「余裕があるなら、まだマシ」と言われかねないのだ。言葉の持つ力というのは、かくも巨大である。

ヒーローを待っていても世界は変わらない

ヒーローを待っていても世界は変わらない
湯浅 誠
〈決めたい〉のか
〈決めてほしい〉のか?
格差・貧困と民主主義を大阪から考える

朝日新聞出版  2012-08-21

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