[book] 『ルパン、最後の恋』

2012年5月にフランスで出版された、モーリス・ルブランのルパン・シリーズの未発表作品『ルパン、最後の恋』の日本語訳である。【→早川書房:書籍詳細

アルセーヌ・ルパンとは、名前を変え、身なりや顔を変えて現れ、宝石や貴重品を盗み、貧しい人や困っている人の味方になるフランス生まれの”怪盗紳士”。

訳者の平岡敦は、『ルパン、最後の恋』が執筆された当時の状況を紹介している。本作は、ルブランが、脳血栓の発作で倒れる前後に手がけたもののようだ。

ルブランが『ルパン、最後の恋』をいったん書き終えたのが、1936年の9月。最後に≪完 fin≫と記されており、ストーリー的には一応完結している。(略)。結局1937年の初冬、震える手で加えられた推敲を最後にして、この作品は最終稿に至らないまま忘れ去れることになった。(文庫版288p.)

実はわたしは、読了直後に、草稿(第一稿)かと思った。なんだか物語にふくらみが乏しく、荒唐無稽感が漂っているのだ。平岡敦は、「ルブランは何度も遂行を加えながら、作品を仕上げていくタイプの作家だった」(文庫版289p.)と述べているのだが、つまり「推敲不足」なのだろう。これから読む人はその辺りを踏まえて読み始めたほうが良いように思う。

本作のアルセーヌ・ルパンは、アンドレ・ド・サヴリー大尉と名乗り、職業は「考古学者、都市計画家、講師、教育者」と自己紹介している。警視総監と親しく、国家にとって「信頼に足る協力者」であるのだが、資金は盗みで調達しているという、すごい設定である。ルパンと悪党との対決や虐げられている子ども達を集めて教育を施すという場面も描かれるが、主軸は、若く美しい大公令嬢(22歳)に、一目惚れしたアルセーヌ・ルパン(40歳)がナイト役を買って出る話である。

シリーズでは、結婚歴があるはずなのに、本作では結婚歴はなく、独身である。ひょとしたら、ルブランは、シリーズではなく、別の物語として書いたのかも思う。期待して読むと、肩すかしを食らう(食らった)。

本作は、モーリス・ルブランの息子クロードが『奇巌城』のような傑作には及ばないという理由で、公刊を望まなかったというエピソードも紹介されているが、たしかに完成度は微妙感が漂う。だが、文庫版に同時収録されたルパン初登場の『アルセーヌ・ルパンの逮捕』(初出版)、『壊れた橋』(特別付録)を読むと、非常に納まりの良い作品になっている。ルブランが本作を未完成(推敲不足)のままで世を去ったのが惜しまれる。

タカラヅカ版は、ポスターや文庫版の帯についている龍真咲と愛希れいかの扮装姿から醸し出される雰囲気は上質で、舞台の出来は期待できそうな予感がするのだが、脚本・演出の正塚晴彦先生は、この原作をどうふくらませるだろうか。『歌劇』7月号の座談会を読むと、原作より細やかなエピソードが入りそうな気がする。本作が、タカラヅカ版だと、どう演じられるのか、興味津々で楽しみ!

ルブランによる解説『アルセーヌ・ルパンとは何者か?』は必読。

宝塚歌劇:月組公演『ルパン -ARSÈNE LUPIN-/Fantastic Energy!』 特集ページ

月組『ルパン -ARSÈNE LUPIN-』
月組『ルパン -ARSÈNE LUPIN-』
ルパン、最後の恋 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ル) ルパン、最後の恋 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ル)
モーリス・ルブラン 平岡 敦

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