[Zuka] 2013年月組『月雲の皇子』

月雲の皇子』は、古事記や日本書紀にえがかれた「衣通姫(そとおりひめ)伝説」と大和朝廷の支配に屈しなかった豪族達との抗争を描いた作品で、演出家・上田久美子の宝塚バウホールデビュー作である。【衣通姫伝説 – Wikipedia

主演の珠城 りょうは、允恭天皇(いんぎょうてんのう)の第一皇子である木梨軽皇子(きなしかるのみこ)役だが、これが抜群の格好良さで、演技・歌ともに出色の出来栄え。将来、宝塚歌劇団を担う実力の持ち主ということを認識させられた。負けん気があるというか、ファイトがありそうなところも、押しである。批判に立ち向かっていくくらいの気概がないと路線スターは目指せないよね。

允恭天皇の第三皇子・穴穂皇子(あなほのみこ)役の鳳月 杏(ほうづき あん)は、仲の良かった兄・木梨軽皇子と最後は敵対する難しい役だが、玉城りょうの堂々たる主演ぶりに負けず劣らずの演技巧者でびっくりした。『ベルばら-オスカル・アンドレ編』では何の役をやっていたか、まったく思い出せず、パンフレットで確認したら、「士官」だったらしい。あのオスカルを取り巻く一群の中にいたのね。大躍進だ。

ヒロイン衣通姫役の咲妃 みゆが、まばゆい純白の衣装をまとった立ち姿は、存在感がある。三輪神社の巫女(かんなぎ)であるため、男性と話すことは禁忌とされ、1幕目は表情と仕草で感情を表す場面が多かったが、愛らしく、素直な気性の姫を美しく演じた。

特筆すべきは、専科・夏美ようと張る演技を見せた輝月(きづき)ゆうま。この人は、まだ入団5年目(95期・研5)なのに、この大物ぶりはなんじゃ。登場場面では、あまりの芸達者ぶりに拍手が鳴り止まなかったという驚異的なスケールであった。

歌劇団(管理部)が、こういう実力のある若手をきちんと登用していくところは、さすがだと思う。宝塚歌劇団の人材育成システムは、すでにいくつかの研究対象になっているようだが、エンターテイメント産業のみならず、一般企業も参考になるのではないだろうか。

上田久美子の宝塚バウホールデビュー作である『月雲の皇子』は、ちょっと某スタジオ作品(ナ●●カやも○○け姫)の影響も感じるが、奇をてらったところがない素直な判りやすい良作だった。作者が、作品で伝えたいことを明確に持ち、それを「物語」として形に表現しているので、観ている側として素直に受け取れた。

書きたいことは山ほどある舞台だったのですが、風邪がまだ治っていないので、これまで。ちなみに、宝塚バウホール公演は、若手有望株を中心にした公演で、宝塚でしかやらない(東京では公演しない)。そのためチケットはすぐに売りきれる。本公演もすでにソールドアウトです。

■(月組)珠城 りょう94期(研6)・鳳月 杏92期(研8)・咲妃 みゆ(96期)

バウ・ロマン『月雲(つきぐも)の皇子(みこ)』-衣通姫(そとおりひめ)伝説より-
作・演出/上田久美子
公演期間:5月2日(木)~5月12日(日)