[book] 大野更紗『さらさらさん』

少し余裕が出来たので、通勤時に『さらさらさん』(大野更紗 ポプラ社)を読み始める。まだ途中。

大野更紗の肩書きは作家・大学院生。 ビルマ、つまり現在のミャンマーを研究中に難病を発病し、入院した経験を、ポプラビーチに連載。これを書籍化したのが、デビュー作となった『困っているひと』(大野更紗 ポプラ社)である。

ジャンルはいわゆる”闘病記”に入るのだと思うが、なんですか、この徹底した自己客観視文体は!とびっくりした。「第6章 わたし、瀕死です~うら若き女子 ご危篤になる~」とか「第9章 わたし、流出する~おしり体虐事件~」とか目次だけ見ても、痛いはず、苦しいはず。でも、読者にその苦痛を共有させようとしない。それよりも、難病患者が「困っている」状況を、仕組み(制度)を認識して欲しいと訴えかける。

時折、微苦笑をさそう内容と洒脱な文章に、これはすごいと思っていたら、大野更紗さんは一躍引っ張りだこになった(Twitterで「ヒロー」というtweetが流れてくる度に、勝手に体調を心配している)。

2年間にこなした対談や依頼原稿をまとめたのが本書である。最初に掲載されている「「健全な好奇心」は病に負けない:大野更紗×糸井重里」対談は、Web上で読んだ。【→ほぼ日刊イトイ新聞連載】または【→Synodos

ちょっとだけ引用。

大野 タイとビルマの国境には難民キャンプがいっぱいあって、
およそ14万人の難民が住んでいます。
そこに「ミャンマー難民です」と見えるような格好をして潜入していきます。
最初に行ったときは、
「そこにいる人たちは難民だから、
清く正しく美しく、かわいそうな人のはずだ!」
と思っていました。本にもそう書いてありましたし。

糸井  うん、本にもね。

(中略)

大野 あたりまえですけど、難民といっても、ふつうの人で、
ぜんぜん清く正しくないんですよ。

糸井 なぜ、100冊の本にはそのことが
書いてないんだろうね(笑)。

 もうね、良い対談なんですよ。糸井重里が大野更紗に「大野さんはいま、20代ですか?」と聞くと、「27歳になりました」と答えが返ってくる。糸井重里は言う。「どうしてその齢でそんなにわかったんだろうね」。読みながら、バンバン膝を打つ。そうよ、なんなのなんなの、20代でなぜわかっちゃうの!!

つまり、やっぱり覚悟が違うんだと思う。当事者は当事者から逃れられない。

「その後」を生きる当事者は、孤立無援だ。
これを、この壁を、越えたい。
簡単なことではないけれど。
無謀かもしれないけれど。
「その後」の続きを始めよう。
(「その後」の始まり 『さらさらさん』pp.76-78)

まったく、SNSで無限ループのバトルをやっている時間があったら、『さらさらさん』を読めと言いたい。超重要なことだから、二度と言わないよ。知らないよ知らないからね。

  • 大野更紗:1984年、福島県生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒。上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科地域研究専攻博士前期課程休学中。学部在学 中にビルマ(ミャンマー)難民に出会い、民主化運動や人権問題に関心を抱き研究、NGOでの活動に没頭。大学院に進学した2008年、自己免疫疾患系の難 病を発病する(皮膚筋炎、筋膜炎脂肪織炎症候群)。1年間の検査期間、9か月間の入院治療を経て退院するまでを綴った『困ってるひと』で作家デビュー。2012年、第5回「(池田晶子記念) わたくし、つまりNobody賞」受賞。Twitterアカウント(@wsary)

 (余談)360ページ・厚さ2.8 cmは、電子書籍のほうが向いているかもと思ったりもする。電子書籍は、ハードとソフトの供給がまだ不安定なので、ずるずる見送り中。今の電子書籍市場 は、パソコンで言うと、MS Windows 95が出る前の独自プラットフォームPC乱立時代みたいな感じがする。念のため、OSとしてのWindowsの出来不出来とは別の話です、と付記しておく。

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