[Zuka] 星組『霧深きエルベのほとり』(4)美しく典雅な女

星組お正月公演が始まって、10日経ちました。本公演のレベルが高いので新人公演の目標値も高くなるんでしょうけれど、本公演と性格付けが全然違ったものでも構わないというか、むしろそういうのも見てみたい。

Now on stageで紅さんが「カールは幸せに憧れているという設定でやっている」という話をしていたけれど、各自で設定した役作りでの芝居をみたいなぁ。フロリアンが嫌味なやつでもいいし、トビアスがベティに一目惚れしてもいい。印象がどう変わるんだろう、その相互作用はどう出るか、というのが興味津々です。それが本公演にも影響を与えると思うと面白いでしょう、面白いよね。

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6人の水夫たちがとても好き。性格付けがはっきりしていて役割分担が出来ているので見分けが付きやすい。プルーストでの自己紹介は注目の場面です。

カール・シュナイダー(紅ゆずる)とトビアス(七海ひろき)の相棒
食べ物をいつも持っているのんびりオリバー(麻央侑希
がさつで荒々しいけれど実は優しいマルチン(瀬央ゆりあ
しっかり者で目端の利くエンリコ(紫藤りゅう)とがんばる末っ子リコ(天華えま)の兄弟

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第2場のプルーストの場面で、ヴェロニカ(英真なおき)を筆頭にゼルマ(夢妃杏瑠)、ミリー(紫りら)、ハイデ(音咲いつき)、エリカ(華鳥礼良)、エッダ(小桜ほのか)、ペトロネラ(桜庭舞)って、歌うまばっかりだな!って思ったら、ビア祭りの女(白妙なつ)が上を行っていた。職工(遥斗勇帆)とデュエットしているんですが、遥斗勇帆が押されているんですよね、さすが白妙なっちゃん。

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安酒場プルーストに金髪に白いドレスのマルギット(綺咲愛里)が入ってきた時に、すぐにこの酒場の客層と違うと判る。水夫達の側にいるプローストの女たちとも違う、どこからか迷い込んできた血統書付きの毛並みの美しい女性。

マルギットのセリフで私が最も好きなのは、「私は信じないわ、私自身をも信じないわ」とピアノの鍵盤を叩いて絶叫するところです。

マルギットの価値観や人を見る目というのはカール(紅ゆずる)と出会ってから、今までのものが揺さぶられて崩れ、彼女は自分の幼さや世間知らずさを知り、愛があるというだけでは貫けないものがあることも知った。

マルギットは素直にカールに恋をし、結婚して、幸せになりたいだけで、身分や職業の違いはなんとかなると思っていたのだろう。

だがその違いは貧富の差に繋がり、生活意識や生活経験、物事の価値観、生活能力などの差異になり、二人の間に歩み寄れない断絶を作っていく、と父ヨゼフやカウフマン警部(天寿光希)、上流階級の人々は予測したのだ。

彼女は、自分が湖の見えるレストランで当然のように特別席に座ったことが、カールを激しく傷つけてしまうとは思ってはいなかった。

マルギットの家出の動機のひとつに自分の産みの母を追い出した父ヨゼフ・シュラックへの敵意があったのだろうが、事実は異なった。それによって彼女の父への敵意は消滅してしまい、態度が変わった。そのことを知ったカールとフロリアンの気持ちの動きにも彼女は気づかなかった。

マルギットも妹シュザンヌ(有沙瞳)も上流階級の家父長制度のもとで育てられた令嬢である。ヨゼフ・シュラックは長女マルギットに家を継がせるために幼い頃に名家の子息だったフロリアンと婚約させた。お互いに近くにいるのが当然の存在である。2歳の頃から婚約していたというアドリアン・エルメンライヒ(極美慎)とローゼマリー・マインラート(星蘭ひとみ)のように。

父ヨゼフと母ザビーネ(万里柚美)の庇護のもと、マルギットもシュザンヌはすべてを当然のものとして与えられて育ち、すべてのものが自分のものであって自分のものではない生活を享受してきた。自分の気持だけが自分のもの。

世慣れたカールは、上流階級の令嬢には厳格な両親がいて、婚約者くらいいてもおかしくないという知識がある。シュザンヌが涙ながらにフロリアン(礼真琴)が身を引いたことを訴えるが(ここも切ない)、カールは婚約者の存在もうすうす覚悟していたのだろう。会ってみたら、育ちが良くて賢そうで、好感の持てる青年だったのだ。

カールとフロリアンで共通している思いは、「マルギットに苦労はさせられない(俺が稼ぐ)」である。それを受けるマルギットは「あなたの稼ぎに頼る」という立場

古き良き時代の上流階級の理想の典雅な女性像。綺咲愛里のマルギットがプローストから丘の上、港、ホテル、ピアノの前と場所を移すたびに表情を変えて行くのが本当にいいんですよね。水色のワンピースもまとめ髪に白いドレスも似合う。あーちゃん、美しいわ。

トビアス(七海ひろき)とベディ(水乃ゆり)に共通している思いは、「この人と一緒に苦楽をともにしよう」なんじゃないのかなぁ。だいぶ違うよね。