[Zuka] 2015年星組『黒豹の如く』

良い作品というのは、脚本と演出に大道具小道具舞台装置照明のスタッフ陣と演じるキャスト達、それに観る側の息が合ってこそ出来るものだね、と思った柚希礼音夢咲ねねの退団公演でした。

作中で、柚希礼音演じるアントニオ・デ・オダリス大佐を始め、紅 ゆずるのアラルコン公爵、真風 涼帆のラファエル・デ・ビスタシオ少佐が、異口同音に「男として」と己を鼓舞するのは、何らかの意図があるのだろうか。

個人的には、作中で繰り返される「男として」という古式ゆかしい文言に、柚希礼音への敬意の念が感じられた、と書くとうがち過ぎかもしれない。だが、「男らしさ」という概念が揺らぎを見せる現代にあって、「愛する人の盾になり、大義を貫く」という「男らしい男役」を追求した柚希礼音への温かい眼差しが感じられる作品で、『Dear DIAMOND!!』共々、晴れやかな気持ちなれる舞台だった。

そう、中日を過ぎたところで、もうMY楽を迎えました。苛烈なチケ難です。しょーがないよね。

【あらすじ】

寄せては返して寄せ集まっていく海の波のように舞うセブンシーズ達(鶴美 舞夕、夏樹 れい、紫 りら、音咲 いつき、紫藤 りゅう、天華 えま、真彩 希帆)。

波が割れ、船首に見立てたセットから海賊ソル(柚希礼音)が登場する。ソルは仲間達(十輝 いりす、壱城 あずさ、如月 蓮他)と共に、敵の海賊(紅 ゆずる、瀬稀 ゆりと、十碧 れいや他)に捕らわれた姫君(夢咲ねね)を助け出し、スペインの国難を救う。大航海時代の伝説である。

アントニオ・デ・オダリス伯爵(柚希礼音)は、父と叔父アロンソ・デ・バンデラス侯爵(英真 なおき)から、「スペインの海を守り抜いた伝説の海賊ソル」の誇りを教えられ、その子孫としてスペイン海軍に入隊し、ソルと同じ「黒豹」の異名を取るようになる。

そしてアントニオは、第一次世界大戦の終戦2周年を祝う式典で、かつて恋人であったラミレス侯爵未亡人カテリーナ(夢咲ねね)に再会する。カテリーナはアントニオが戦地にいる間に、実家の負債の肩代わりにラミレス侯爵家に嫁がされた。だがラミレス侯爵は早世し、未亡人となったカテリーナとアントニオの間にもはや障壁はない。再会に揺らめき、燃え上がる二人は、初めての出会いを思いだし、ハーモニーを奏でる。

第1場で再会し、第2場で愛を確かめ合うという早い展開に、「ちえねねはラブラブしてろ」というファンのニーズをよくご存じだと内心の声。

二人が語らうところに、ラファエル・デ・ビスタシオ少佐(真風 涼帆)が、ビクトル・デ・アラルコン公爵(紅 ゆずる)を案内してくる。スペイン名門貴族の出身で、辣腕を振るう実業家のアラルコン公爵(紅 ゆずる)は、アントニオ(柚希)を会談に誘うが、アントニオは相手にしない。アントニオが懸念しているのは、実業家との権謀術数よりも軍内部で起きている軍人達の失踪と不明朗な金の行き先だった。

イタリアやドイツではファシストが台頭し、戦争は終結したとはいえ、世界情勢は不穏な状態が続いていた。スペインに忠誠を誓い、国を守る軍人として、アントニオはどういう生き様をすべきか、己の成すべき事を考えていた。

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3回観たんですが、ずーっと気になってオペラで追いかけていたのは、紅 ゆずる

紅ゆずるの得意とするのは、『眠らない男・ナポレオン』のマルモンや『The Lost Glory』のロナルド・マーティンのように、傑出した強さや美しさを持つわけではないけれど、日々を実直に生きている「普通の人」が何らかのきっかけで揺れ動くような役じゃないかと思っているのだが(あとコメディタッチの役)、そういう目で見ると、アントニオに敵対する役柄のアラルコンは紅 ゆずるにはキツいのだろう。初日2日目の観劇の時は、「切れるタイプ」のアラルコンで、かなり無理をして演じているように感じられた。中日を過ぎて、「切れる」感は薄れたが、貴族の大物実業家というよりも「ヤクザ」感が増していた。新人公演も終わったので、また変化をするであろうが、紅ゆずるは、役を自分の側に引き寄せるようにした方が良いのではないだろうか。自分が理解できない役になるのではなく、役を自分に理解できるように「創る」のだ。声も無理して野太くをしようとしているので、滑舌が乱れる。がんばっているのは伝わってくるが、素でやってみるくらいの勢いがあると良いのかなぁ。