[Zuka] 2013年雪組『若き日の唄は忘れじ』@全ツ

雪組全国ツアー公演】の前楽を、仙台市泉文化創造センター・イズミティ21を観劇しました。『若き日の唄は忘れじ』(脚本/大関 弘政 演出/大野 拓史)は、中日劇場の公演【→感想(1)】【→感想(2)】→【感想(3)】とは、配役と演出が変えてあることは聞いていたのですが、脚本はそのままでも、配役と演出の変更で、ずいぶん受ける印象が違うなぁと、感心することしきり。レビュー『ナルシス・ノアールⅡ』(作・演出/岡田 敬二)は、雪組の個性にマッチし、素敵な仕上がりになっていました。

壮一帆がトップになって、まだ1年経っていないが、雪組はすっかり壮カラーに染まっていた。息の合いっぷりがすごい。

中日公演版と、大筋は変わっていないのだが、悪役チームの構成が変わっていた。海坂藩の家督乗っ取りを企む里村家老@蓮城まこと一派における実働部隊リーダーを、武部春樹 @未涼亜希に、その手下に山根清次郎@月城かなとを置き、海坂藩における対立構造を明確にしたことが、物語を引き締めた。

文四郎@壮一帆の養父である牧助左衛門@夏美 ようは、反逆者として処刑され、文四郎はその遺骸を引き取って帰る。その場面を武部 @未涼は、笑いながら観ている。ここで観客は、文四郎の姉留伊@透水 さらさの夫である武部@未涼が完全に、文四郎@の敵であることを知る。

海坂藩のお家騒動を物語の縦軸に、横軸におふく@愛加あゆと文四郎@の恋模様を持ってきたことで、文四郎@の行動に客観的な動機が付され、お家騒動→父の敵討ち→巻き込まれたふくを助ける、という流れがすっきりした。ちょっとした演出の変更で、こうも変わるものかと、演出の威力をまざまざと感じた。そして、文四郎@と武部 @未涼の殺陣が、真剣勝負ですごく良かった。気迫と技のぶつかり合い。

大野 拓史氏の次回作は、100周年記念の『一夢庵風流記 前田慶次』。脚本・演出の両方担当なので思う存分、腕を振るってくれると思う。

中日公演版のケチを付けたラストシーン【→感想(3)】だが、セリフはそのままだったが、三三九度が割愛され、文四郎@とおふく@愛加の演技が変わっていた。文四郎@は、さらりと感情を込めずに「娘にふくと名付けた」と告白し、おふく@愛加はその言葉を淡々と受け止める。毅然としたおふく@愛加の態度からは、かなわなかった初恋に、決着を付けたことが伺える。

おふくの人生に選択肢などなかった。望まぬ江戸屋敷への奉公。藩主の寵愛を受けて子を産むも、周囲の妬みや嫉みを避けて故郷に戻って隠れ住んでいたが、お家騒動に巻き込まれる。藩主が亡くなると、落飾して尼になるしか道はない。唯一、自分が選び望んだが、引き裂かれた自分の人生に決着を付けるために、おふくは、文四郎に茶屋で待つ、との手紙を出す。文四郎が、「思い残すことばかりです」と喉の奥から絞り出すような声で呻いたのも、おふくの覚悟があってこそ。

圧巻のラストシーンであった。愛加あゆがすっかりトップ娘役の顔になって、演技に気品と艶が出てきた。次の雪組公演『Shall we ダンス?』『CONGRATULATIONS 宝塚!!』が楽しみである。

イズミティ21の緞帳
イズミティ21の緞帳

 ■主演・・・壮 一帆、愛加 あゆ

ミュージカル・ロマンス『若き日の唄は忘れじ』

~藤沢周平作「蟬しぐれ」(文春文庫刊)より~
脚本/大関 弘政 演出/大野 拓史

ロマンチック・レビュー『ナルシス・ノアールII』
作・演出/岡田 敬二