『さらさらさん』(大野更紗 ポプラ社)の帯に載っているコピーが、秀逸である。
ビルマ女子→難病女子→おしり女子→有袋類…謎の変貌を遂げてきた大野更紗。
作家&フィールドワーカーとして、新たなる一歩を踏み出した活動の記録。「困っているひとの本棚」(MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店)のために作成した、暑苦しい手書きPOPも完全掲載
…この謎さ加減は、もはやプロ。エンターテイナー である。(太字・及び色を変えたのは、あおき)。
『さらさらさん』には、対談の合間にコラムが掲載されている。どのコラムも「大野更紗」としか言いようのない、味のあるコラムなのだが、いまのあおきに、最も衝撃的だったコラムが、『「その後」のはじまり』だ。じつはこれは【最初に書いた感想】でも引用した。
劇的な瞬間のさなかでは、悩んでいる余裕すらない。
突然の嵐に巻き込まれ、自分がどこにいるのかわからなくなる。
外部からいろんな人がやってくる。
(中略)
外部の人は、「成功」と「終了」を告げ、やがて去っていく。こうして劇的な瞬間が終わって生き延びた後に、当事者にとっての「その後」がはじまる。
「わたし」にとってのほんとうの危機は、そこからはじまる。 (略)かわいそうに、と優しく背中をさすってくれていた人はもういない。何でもしてあげたい、と声をかけつづけてくれた人はもういない。友だちも、大事な人も、信じていた人も、「わたし」を見る視線がどんどん変わってゆく。重苦しく、冷たく、よそよそしくー。 (略)
気がつくと、みんなは遙かに遠くにいってしまい、「わたし」だけが取り残され、「わたし」だけに世界が壊れる音が降り注ぐ。誰もわかってくれない。誰も救ってくれない。そこからが、はじまりだ。 (略)
どんな人でも一人きりでは何もできない。
「その後」を生きる当事者は、孤立無援だ。これを、この壁を超えたい。簡単なことではないけれど。無謀かもしれないけれど。「その後」の続きを、始めよう。『「その後」のはじまり』(『さらさらさん』pp.76-78)
この本は、大野更紗が「同志」や「好敵手」と相まみえる過程をつぶさに記録したものだ。「当事者」のことは、「当事者」しかわからないけど、志が同じ人とは、「同志」にはなれると思う。志が異なる人は「好敵手」に、志や生き方が全く違っても、気が合う人とは「友人」として生きることができる。
一度壊れたものを、完全にもとに戻すことはできない。
だが、日本には、割れたり欠けたりした陶磁器を接着剤(旧来は漆)で接着し、繕った部分を金を装飾していく修理方法「金継ぎ」【→Google検索】という方法がある。(こういう雑学はマンガで仕入れる。→『愛美のレゾネ』(酒川 郁子))
金継ぎは、時間も手間もお金もかかる。だが、金継ぎを施された陶器は、独特のおもむきを呈し、美術品として扱われることすらあるという。
『さらさらさん』は、難病を発症し、『困ってるひと』になってしまった大野更紗が、「金継ぎ」によって再生されていく過程だ。「新たなる」大野更紗の活躍はめざましく、その言葉は、その生き様はわたしを惹きつけて止まない。(でも体は大事よ。体が資本。)
対談相手については下記を参照のこと。やっぱり紙の本もいいねえ。
【内容情報】(「BOOK」データベースより)
ビルマ女子→難病女子→おしり女子→有袋類…謎の変貌を遂げてきた大野更紗。新聞、雑誌に寄稿したエッセイをはじめ、糸井重里氏、古市憲寿氏、重松清氏、石井光太氏ほか、話題の人との対談を収録。
【目次】(「BOOK」データベースより)
「生存の手帖」/対談 糸井重里×大野更紗 健全な好奇心は病に負けない。/日常を、ひらく/「その後」のはじまり/「お母さんの子ども」たち/対談 古 市憲寿×大野更紗 絶望の国の困ってる若者たち/対談 中島岳志×大野更紗 批評としての「闘病記」/対談 重松清×大野更紗 「可哀相なひと」と「困っ てるひと」はイコールではない/対談 石井光太×大野更紗 不条理にどう立ち向かうか?/祭りと、祀りー誰がためにミュージックは鳴る〔ほか〕
【著者情報】(「BOOK」データベースより)
大野更紗(オオノサラサ)
1984年福島県生まれ。作家。2008年上智大学外国語学部フランス語学科卒業。ビルマ(ミャンマー)難民支援や民主 化運動に関心を抱き大学院に進学後、自己免疫疾患系の難病(皮膚筋炎、筋膜炎脂肪織炎症候群)を発症。2012年、第5回「(池田晶子記念)わたくし、つ まりNobody賞」受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
さらさらさん (一般書) 大野更紗 ポプラ社 2013-03-13 by G-Tools |
困ってるひと (ポプラ文庫) 大野更紗 ポプラ社 2012-06-21 by G-Tools |