WHO、東京五輪へ警戒を呼びかけ
世界保健機関(WHO)が、サッカー欧州選手権「ユーロ2020(EURO2020)」を契機とした新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が起きていることを指摘し、東京オリンピック・パラリンピックに対して、感染拡大への警戒を呼びかけました。
[ジュネーブ 2日 ロイター] – 東京五輪・パラリンピック開幕を控え、国際パラリンピック委員会(IOC)に助言を行っている世界保健機関(WHO)は2日、五輪が新型コロナウイルス感染拡大につながらないよう慎重な対応を呼び掛けた。
欧州ではサッカー選手権「ユーロ2020」の試合開催都市で感染が拡大。WHOの疫学者マリア・バン・ケルコフ氏は記者会見で、ユーロ2020から得た教訓に基づき、IOCと東京五輪・パラリンピック組織委員会に対しどのような助言を行うかとの質問に対し、WHOはユーロ2020から教訓を学んでいるとし、「ウイルスが存在しているのに警戒措置が取られなければ、感染は拡大する。このため警戒を呼び掛けている」とし、「全ての人にリスクに基づき行動するよう呼び掛ける」と述べた。
WHO、東京五輪への警戒呼び掛け 「サッカー欧州選手権を教訓に」 / REUTERS (2021年7月3日)
WHO幹部、欧州での新型コロナ第3波を警告 / REUTERS (2021年7月1日)
ヨーロッパでは新規感染者数は先週、10%増加
WHOは、ヨーロッパでは先週の新規感染者数が10%増加しており、その背景に、欧州選手権(EURO2020)の開催都市での観客の交流、移動、規制の緩和があると指摘。
試合会場への移動やバーやパブ、パブリック・ビューイングなどに大勢のファンが集まり、興奮して大騒ぎしていることが感染を広めていると警告しています。
WHOのキャサリン・スモールウッド上級緊急担当官は次のように述べた。
「考えるべきなのは、どのように観客はスタジアム周辺に到着するのか、ということだ。大勢の人が集まる車列やバスで移動しているのか?その際、個々に対策を講じているのか?試合後はどうなっているのか?スタジアムを去る観客はその後、混雑したバスに乗ったり、パブで試合を観戦したりするのだろうか?我々はこれまで、こうした人の入り交じりがあれば、感染につながると述べてきた。なぜなら、こうした入り交じりがワクチンの完全接種を終えていない人たちの間で起こり、ウイルスが存在すれば、感染者が出るからだ」
欧州でコロナ感染増加、サッカー選手権で拡大=WHO / REUTERS (2021年7月1日)
WHO幹部、欧州での感染再拡大を警告 交流の増加などが要因と / BBC (2021年7月2日)
サッカー欧州選手権2020(EURO2020)とは
サッカー欧州選手権(EURO)は、欧州サッカー連盟(UEFA)の主催で、4年に1回開催されています。2012年はポーランドとウクライナ、2016年はフランスが開催地でした。2020年大会(ユーロ2020)は開催60周年にあたり、UEFAは、欧州全域で開催することを決定していました。
昨年からの新型コロナ・ウイルス感染症のパンデミックのために2021年に延期になり、6月11日から11都市に分散して開催されています。
感染対策は開催地(国)によって異なります。
海外からのサポーターの入国にあたっては、ワクチンの完全接種、PCR検査 / 抗原検査の陰性結果(陰性証明書)、限定的滞在日数など、各国ごとの水際対策に従い、海外からの入国を認めていない開催地もあるようです。
UEFAは観客を入れて開催することを前提としており、会場の人数制限(収容率25%以上)は、開催地(国)に任せているようですが、有観客を保証できないとしたビルバオ(スペイン)とダブリン(アイルランド)での開催は見送りになり、セルビア(スペイン)やサンクトペテルブルク(ロシア)、ロンドン(UK)に分散しています。
サッカー欧州選手権(EURO)での感染拡大
報告によれば、EURO2020関連の感染拡大は、新型コロナウイルスのデルタ株 ( SARS-CoV-2 Delta variant )が広がってるロシアやイギリスに遠征して、帰国した際の検疫などで発覚しているようです。
デルタ株について、京都大学の西浦教授らは、国内でのB.1.617.2系統の変異ウイルス(デルタ株)の感染力を従来株と比べて1.9倍、B.1.1.7系統の変異ウイルス(アルファ株)と比べて1.32倍と分析しています。海外では重症化率も高いと報告されています。
WHOのテドロス事務局長は、「私たちは今パンデミックの中でも非常に危険な時期を迎えている」とデルタ株の感染拡大に懸念を表明しています。
フィンランドの保健当局(THL)が、「サンクトペテルブルクから帰国したフィンランド人観光客の中で約300件の新型コロナウイルス感染が確認された」と発表。
デルタ株拡大中のロシアへ遠征したフィンランドサポーター3000人中300人が新型コロナ感染 / 超World・サッカー! / 2021.06.29
UK summaryによると、イギリスは成人人口の63.4%がワクチン2回接種完了、1回接種は85.7%とヨーロッパでは高い接種率を誇ります。しかし6月28日に新規感染者数が1日2万人を超え、デルタ株がまん延中です。
感染が広がってるのはワクチン未接種の若年者層で、死者は増加していないとの分析もありますが、入院者数がじわじわと増えています。
イギリスは、ロンドンで開催されるEURO2020の決勝と準決勝に6万人以上の観客を入場させ、7月18日開催のF1イギリスGPの決勝戦では14万人を動員予定。
7月19日にマスク着用やソーシャル・ディスタンスなどの措置を全面解除する構えです。
スコットランド公衆衛生庁の報告によると、6月27日までの1週間でスコットランドでは1万7351人の感染が確認された。通常スコットランドに住み、6月11~28日にかけて、サッカー2020年欧州選手権(ユーロ2020)の観戦やイベント参加を1回以上した人では1991人の感染が確認されたという。
サッカー大会がスコットランドの1991人の感染に関係 大半はロンドンに移動/ BBC / 2021年7月1日
イギリスは、現時点で、新規感染者数2万人/日を超え(7月1日 : 27,556人)、ピークアウトしている様子はありません。制限を全面解除するとさらにデルタ株はまん延し、ヨーロッパ大陸はおろか、世界中にデルタ株を拡散することに繋がりかねないと思うのですが、大丈夫でしょうか。
WHOやヨーロッパ首脳陣も懸念を表明しているようです。新型コロナ: 独首相、サッカー6万人入場「非常に心配」 英は安全強調: 日本経済新聞 /(2021/07/03)
東京オリンピック開催に関しても東北大の押谷仁先生から、同様の懸念が示されています。
“There are a number of countries that do not have many cases, and a number that don’t have any variants. We should not make the Olympics (an occasion) to spread the virus to these countries,” he added, noting most countries lack vaccines.” Top Japanese virologist warns of risks of Tokyo Games during pandemic-paper (2021/06/08)
どんなに安全対策をしても、接触や感染は避けられない
ロシア・サンクトペテルブルクの医師は、「私は医師なので、大規模イベントの開催にはもちろん反対だ。どんなに安全対策をしても、接触や感染は避けられない。大規模イベントの後には患者が急増するだろう」( REUTERS/ 2021/07/03 )と述べています。
記事を読んで、いま、日本の医療従事者や公衆衛生関係者は同じような気持ちの人が多いだろうなと思いましたが、これは世界中の多くの医療従事者や公衆衛生関係者の気持ちなのかもしれません。
この夏に東京オリンピック・パラリンピックを開催するのは完全にウイルスに勝ちを与えに行くようなもの。(オウンゴールらしい。教えて貰った)。私見は変わりません。⇒「入国者全てに入国後2週間の隔離を行うことが出来ないのなら、東京オリンピック・パラリンピックは中止あるいはワクチン接種が普及するまで再延期がいいと考えています」。(2021/04/04)
ただ東京オリンピック・パラリンピック開催に関して新型コロナウイルス感染症対策分科会をはじめ、感染症や公衆衛生の専門家の先生方はできる限りの分析や提言を行っていると思っています。医療従事者はこれからも罹患者への治療やケアを行っていくでしょう。
菅首相は、「人類の努力や英知を結集して乗り越えられるということを世界に発信したい」(読売新聞/7月4日)と話されているようなので、あとはリスク管理者である政府と東京都の政治責任に委ねたいです。