[ZUKA] 凪七瑠海コンサート『パッション・ダムール-愛の夢-』

凪七瑠海コンサート『パッション・ダムール -愛の夢-』

専科・雪組公演
凪七瑠海コンサート / ロマンチック・ステージ
『パッション・ダムール -愛の夢-』
作・演出/岡田 敬二

10月25日に(日)千秋楽を迎えた『パッション・ダムール -愛の夢-』。凪七瑠海様、コンサート単独主演おめでとうございます!。観劇と配信で堪能しました!


『パッション・ダムール』と『NOW! ZOOM ME!!』

『パッション・ダムール』は、ベテラン中のベテランである岡田敬二氏が、数多い引き出しの中から、珠玉の持ち札を集めて作ったロマンチック・レビュー選りすぐりの名場面集である。終わった後に夢々しい気持ちで帰途につける幸せなコンサートだった。

89期の凪七瑠海と望海風斗。望海の MEGA LIVE TOUR『NOW! ZOOM ME!!』は怒涛のように楽曲が流れ場面が変わるたびに何が始まるんだ!と身構えた覚えがある。いわゆる「サイトーの犯行」なので、何が襲ってくるかわからないのだヾ(*ΦωΦ)ノ ヒャッホゥ。怒涛の盛り上がりが楽しい。11月3日の雪組退団者発表後なのでより懐かしい。これも幸せな思い出だ。

『パッション・ダムール』はそのNZMの真逆の趣があった。古き良きロマンティックな宝塚に新たなるエッセンスを加えて創り直しているため、場面に見覚えや知識はあるのだけれど、何かが違う。それは新たに蘇りしもの。その深みと麗しさに高揚する。「古きを温めて新しきを知る」という宝塚歌劇のレビューの積み重ねを思い知れる。


凪七瑠海の男役8変化

幕が上がり、スポットライトで真紅のお衣装を着た凪七浮かび上がり、一人踊りだす。男役8変化の第一はスパニッシュ。歌うは新曲「パッション・ダムール」(作詞/岡田敬二、作曲/吉崎憲治)。続いて赤いお衣装の8人の男役と8人の娘役が組んで踊りだす。手拍子が響き、踏み鳴らす。情熱的なプロローグ。

小顔のフェアリータイプの170cmの凪七。頭部が小さく手足が長くて、その頭身バランスだけでも見惚れる(宝塚ではあるある)。細身の身体に後ろ裾が長い変わり燕尾がよく似合う。

凪七は『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』(月組、2009年)のエリザベートや『オイディプス王』(専科、2015年)のイオカステ、ショーでも女役も披露しているが、今回は男役に徹したいという凪七の希望により全編男役になったそうだ。そのため研18の凪七の水際だった男役ぶりを堪能できる公演になった。男役8変化のほかの姿は、ガウチョ、ゴールドのマント+水色上下の貴公子、スーツ(ジゴロ)、白燕尾、ハットとストライプのスーツ、白軍服(学生王子)、黒燕尾。



ハードボイルドとは固茹で卵

凪七が初めてというガウチョの青年では、気立てのいい恋人(彩みちる)を傍らに、仲間たちが踊ったり歌ったり青春を謳歌しているのを率いていく兄貴分のよう(『ネオ・ダンディズム! – 男の美学』より、アディオス・パンパミーア(Adios Pampa Mia))。

野性味のある場面のあとにドレス姿の娘役二人(有栖妃華、莉奈くるみ)による「Ramona」。二人が去った後に凪七が登場。黄金の豪奢な衣装で「アムール、それ…Amour,Je Te Dois)」を歌い、水色の貴公子に早変わり。妖精の森で白い輪っかのドレスの妖精A(星南のぞみ)と踊る。そのきらめきと洗練された動きに息を呑む。

貴公子の次はジゴロ、白燕尾になり、1幕が終わる。40分があっという間だった。イメージが全く異なる場面の切り替わりに対比効果があり、間に下級生による間奏曲が挟まれるのも、8变化を楽しむのに効果的。凪七の切り替わりが鮮やかだった。

凪七(愛称カチャ)は、Cafe ふぉるだで、星組のひろ香祐と湊璃飛にストレッチやらトレーニングやら教えていて、かちゃさんトレーナーになるの??とか思ったりしたが、自粛期間中にもしっかり身体を鍛えて整えていたとわかる身体の切れだった。そのためか、すこしふっくらしてたのが戻っていて、またまた細くなっていた。そして以前よりも歌声に雑味がなくなった。低音に下げようとしてくぐもって聞こえることがあったのだが、クリアになり、伸びがよくなった。『Bouquet de TAKARAZUKA』(2017年)の花夢幻もよき歌声だったが、さらに磨きがかかった。

凪七のMCで、2幕冒頭の「ハードボイルド」について語っていたのが興味深かった。白と黒のストライプのスーツとハットで決めた眞ノ宮るい、縣千のタンゴで始まるこの場面は、真矢みきさんが「ダンディズム!」で演じた名場面である。この場面のお稽古中、なかなか納得できなかった凪七は、「ハードボイルド」の意味を調べ、名詞だと思っていたら形容詞で、「非情な、人情や感傷に動かされない、精神的・肉体的に強靭である」という意味を把握してイメージを固めていったそう。意味からイメージを掴んで、それを的確に表現するというのは、男役の技術とセンス。蓄積が物を言う。何がいいたいかというと、めっちゃカッコよかった!ってことです!!

公演では悪役・敵役が多いが、別な役柄でも見てみたい。


雪組の次世代

眞ノ宮るいは、明るい前向きさがあって、ひたむきに踊る。縣千はダンサー先行型だと思っているけれど、歌も低音が安定してきた。彩風雪組は踊る組になりそうな気がしている。雪組の次世代が着々と育ってます。

中堅どころの叶ゆうりは、熱っぽく、濃さも込めてSmileをソロで歌い上げ。千風カレン副組長のたおやかな「夢・アモール」は天月翼とともに。希良々うみのGigoloの歌手は妖艶に、有栖妃華の仙女の祈りは清らかに。

バウホールでは過去に三木章雄先生のバウ・ショーケース 『New Wave! 』シリーズ(2013年~2018年)やショーケース『Dream On!』(2019年)、中村 一徳先生の『Bow Singing Workshop』シリーズ(2016年)のように中堅以下のレビューショーが上演されている。下級生がソロや踊る機会を持てる公演は貴重な機会だと思っていたが、今回のように専科生が下級生を率いるコンサートは、「専科さん」の大きな傘のもとで下級生がのびのびと出番や持ち歌に向かっており、これはこれで好ましい。今回は、凪七の一期下である90期・千風カレン副組長も一緒だったので頼もしく見ていられた。


ロマンチック・レビューとは何か

プログラムによると「宝塚のレビューやショー作品は、あくまで、清潔で上品でロマンチックでありたい」というのが岡田先生のポリシー。では岡田先生が創り上げたレビューシリーズ、ロマンチック・レビューとは何か。『岡田敬二が語る ロマンチック・レビュー』には以下のように話されている。

<ロマンチック・レビュー>は日本の、宝塚歌劇団にしか出来ないオリジナル・レビューをお届けしたいという想いで創っています。(中略)。アメリカ、フランス、ドイツなど、観光客用のレビューをロングラン・システムで上演している国もありますが、今や、定期的にオリジナル・レビューを上演しているのはタカラヅカしかありません。

<ロマンチック・レビュー>シリーズでは、私たちにしかできない、感性と内容を持った、成熟したオリジナル・レビューをめざしています。

ロマンチック・レビュー特集『岡田敬二が語る ロマンチック・レビュー』(宝塚歌劇公式)https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2016/ouka/special_003.html

月組公演の『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』(監修/坂東玉三郎 , 作・演出/植田紳爾)と『パッション・ダムール』を続けてみると、宝塚歌劇の「清く、正しく、美しく」というモットーを作品として具現化し、気品や優美さ、端正さ、清冽さ、清潔感というような要素を「舞台」という形で表現し、深めて伝えてきた歴史を感じる。岡田氏の活動時期は1967年から現在、植田紳爾氏は1960年から現在まで。20世紀は戦争の世紀と言われるが、その中で、きらびやかさと華やかさに満ちた夢の世界を創り上げ、守り続けるというのは壮大な偉業。

岡田先生はバウホールに観劇に行くたびに、ダンディな姿をお見かけしました。MCでは何人もの雪組下級生が岡田先生からお話をたくさん伺ったと嬉しそうに話していて、それは財産だなと。

久城あす休演が惜しまれました。2021年1月からの大劇場公演は出演予定のようです。舞台上の人数制限があっても、出演しているというのは安心材料です。