『コクリコ坂から』(企画・脚本:宮崎駿、監督:宮崎吾郎)。1月11日(金)『金曜ロードSHOW!』』で初見。そしてもう観ないであろう。
なぜかというと、うーん、難しい。というのも、『コクリコ坂から』は、基本的にストーリーに破綻はない。そしてグラフィックは港町をレトロな情調を込めて、美しい色彩で描いている。登場人物たちの表情の変化は、丹念で細やか。16歳の少女と17歳の少年の、無鉄砲さを伴ったみずみずしさ・前向きさを鮮やかに浮かび上がらせる映像は、初監督作品『ゲド戦記』(→【感想】)で垣間見えた、宮崎吾郎テイストだと思う。
ただ、その根底に流れる思想…というか精神がダメ。合わない。この責任は、宮崎駿の脚本にあると思う。
『コクリコ坂から』では、宮崎駿の超個人的ドリームが炸裂している。【宮崎駿の描くヒロイン像に偏りがある】ことは、よく知られていて、多分好みは16歳以下できれば12歳以下。宮崎駿アニメのヒロインは純潔で健気で神性さをたたえ、守るべきもののためには戦うが、基本「つくす」ことを本望と思っている女の子。つまり、末は”良妻賢母”か”聖母様”である。(斉藤美奈子は、『紅一点論』で、その辺りを指摘した。ちょうど宮崎駿絶頂期であり(1998年)、そんなこと書けちゃうのはこの人くらいであっ た)。
本作で、宮崎駿は、自分好みの女の子メルが描きたくて脚本を書いたという印象を受けた。描きたいのは、メルのみ。メルは父を亡くし、母は留学中。祖母と妹弟と下宿人のために、家事をしながら、船乗りだった父を思って、毎日、海の見える自宅の庭に、「御安航を祈る」と旗を掲揚する。健気で前向きで、ひなげし(コクリコ)のような可憐さ。宮崎駿ヒロイン集大成です。高校の制服も原作ではブレザーだったんだけど、映画ではセーラー服になっています。拘りだ。メルのボーイフレンド風間は、おまけ的な設定となっている。
個人的には、宮崎駿監督本人の作品なら、どんなヒロインであろうが、ストーリーの中に位置づけられているわけだし、今までは全く気にせず観てきた。今回も、宮崎駿が監督として自分の作品でやろうというのなら、もう少し物語に力を入れたと思う。でも吾郎監督の作品=「他人の土俵」の気軽さでやっちゃった。その結果、吾郎監督の素直な感性が活かされた情感あふれる画と物語が乖離している。物語に魅力や説得力が全くない。
というわけで、がっかり感がハンパなく。『もののけ姫』(1997年)は遠くなったなぁ。
吾郎監督は、ボーイ・ミーツ・ガール(Boy Meets Girl)を等身大の男の子と女の子で、きわめて自然に表現できる監督だと思う。吾郎監督の本当のオリジナル作品が観たい。切に望む。
【あらあらすじ】 下宿屋を切り盛りしつつ、高校に通う16歳の海(愛称メル)。メルは、朝も早くから下宿人含め6、7人分の朝食を作り、洗濯をし、高校に行けば、 ちょっと気になる男子(風間俊)のお手伝いで文化部部室棟の大掃除まで行う。とある事情から、風間がメルに冷たい態度を取っても、部室に顔を出し、「何か お手伝いすることはありませんか?」と尋ねる健気な女の子である。風間もそんなメルが気になっていたが、冷たい態度を取るのは、ある理由が…。
コクリコ坂から [DVD]
スタジオジブリ 2011 by G-Tools |
- 原作 – 高橋千鶴、佐山哲郎『コクリコ坂から』(角川書店刊)
- 企画 – 宮崎駿
- 監督 – 宮崎吾朗
- 脚本 – 宮崎駿、丹羽圭子
- プロデューサー – 鈴木敏夫
- 音楽 – 武部聡志(徳間ジャパンコミュニケーションズ)
- 提携 – スタジオジブリ、日本テレビ放送網、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、ディズニー、三菱商事、東宝
- 特別協賛 – KDDI
- 特別協力 – ローソン、読売新聞
- 配給 – 東宝
- アニメーション制作 – スタジオジブリ