2006年星組版のフェルゼン編。フランス王妃・ルイ16世后であるマリー・アントワネット(白羽ゆり)とスウェーデン貴族フェルゼン(湖月わたる)の道ならぬ恋の行方を描く。オスカルは役替わりで、特別出演の雪組トップスター朝海ひかる。
冒頭、二人のファンの貴婦人方に騒がれつつ、フェルゼン(湖月わたる)とオスカル(朝海ひかる)が登場するシーンは、二人の立ち位置の違いとストーリーの流れを暗示するかなり重要な場面になっている。
湖月フェルゼンは、朝海オスカルを前にし、「たとえフランスがどうなろうと、私だけは王妃様を愛し抜く」と言い切る。それに対して、朝海オスカルは、フランス王家を護る公人としての立場でしか接することができない。「君はスウェーデン貴族」だから、「この動乱の原因は君にもある」と詰め寄る。
フェルゼンは、オスカルは自分の気持ちを理解してくれていると思っていた。フェルゼンにとってフランスという国は、マリー・アントワネットが王妃だから大切なのである。その反面、フェルゼンはマリー・アントワネットが、自分より、子ども達やフランスを選び、いつか別れが来るであろうことも覚悟している。それなのに・・・・。だからつい言ってしまう。
「女でありながら女を捨てた君にはこの苦しい胸のうちはわからない。愛することの苦しみを知っているならば、こんなむごいことは言えないはずだ」。
湖月フェルゼンと朝海オスカルは、全く異なる次元で思考している。湖月フェルゼンは、愛は盲目状態でマリー・アントワネットと自分しか見えていないが、朝海オスカルは、フランス軍人として気づいている。フランス国内では、王妃とスウェーデン貴族の不貞の噂が流れ、国民の心はフランス王室から離れ始めていることを。
朝海オスカルは、軍服を着ている間は、自分は女でなく軍人であると自分を制している。ゆえに、国を愛する軍人として、マリー・アントワネットとフェルゼンの近しい友人として、心配をしている。湖月フェルゼンに「女を捨てた」と言われても、顔をゆがませるだけで耐える。軍神マルス!
ストーリー展開だけで考えると、フェルゼンは単なる傾国のダメ優男なのだが、これが湖月わたるが演じると、相手のすべてを肯定し支える度量を持ち、困難に耐え抜く貴公子・・ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)に見えるから不思議だ。
白羽ゆりのマリー・アントワネットが気品があり、密やかな悲しみを秘めた美しい女王で素敵である。あと英真なおきのルイ16世がめっちゃ良い味を出していた。マリー・アントワネットの美しさと華やかさに気押されながらも温厚篤実で、心の底では王妃をとても愛している。たよりなさそーなんだけれど、いざという時は責務から逃げない国王像だった。
2006年星組版でのフェルゼンとオスカルのいさかいシーンは、ストーリーの中にちゃんと位置づけられて、オスカルとフェルゼンの立場を象徴し、この後のフェルゼンの行動に繋がる重要な場面となっている。ところが、2013年版はいさかいシーンが、急な穴埋めで挿入されたかのような唐突感があり、ずーっと気になっていたのだが、2006年版を見て、2013年版のあのシーンを自分なりに解釈できた。それはまた別項にて。
●マリー・アントワネット生誕250周年記念
三井住友VISAシアター
宝塚グランドロマン『ベルサイユのばら』-フェルゼンとマリー・アントワネット編-
~池田理代子原作「ベルサイユのばら」より~
脚本・演出/植田紳爾 演出/谷正純
- フェルゼン:湖月わたる
- マリー・アントワネット:白羽ゆり
- オスカル :(雪組)朝海ひかる
- アンドレ:安蘭けい
- ブイエ将軍 :汝鳥 伶
- マリア・テレジア:邦なつき
- メルシー伯爵:未沙のえる
- モンゼット侯爵夫人:出雲 綾
- ルイ16世:英真なおき
- シモーヌ:万里柚美
- ジャルジェ将軍 :にしき愛
- べザンバール公爵夫人: しのぶ紫
- ランベスク子爵夫人:朝峰ひかり
- シッシーナ伯爵夫人:高央りお
- プロバンス伯爵 :紫蘭ますみ
- 公安委員:美稀千種
- ベルナール: 立樹 遥
- カトリーヌ:百花沙里
- ブリジット:彩愛ひかる
- ジェローデル:涼 紫央
- 以下省略